April 8, 2019

東京・春・音楽祭 ワーグナー・シリーズvol.10 「さまよえるオランダ人」

●5日は東京文化会館で、東京・春・音楽祭のワーグナー「さまよえるオランダ人」演奏会形式。キャストが強力。オランダ人にブリン・ターフェル、ゼンタにリカルダ・メルベート、ダーラントにイェンス=エリック・オースボー(アイン・アンガーの代役)、エリックにペーター・ザイフェルト、マリーにアウラ・ ツワロフスカ、舵手にコスミン・イフリム。オーケストラはダーヴィト・アフカム指揮NHK交響楽団。コンサートマスターにライナー・キュッヒル。「さまよえるオランダ人」は休憩を入れるのか入れないのかが気になるところだが、第1幕の後に30分の休憩を入れ、第2幕と第3幕は続けて上演するという安心仕様。休憩歓迎。
●「さまよえるオランダ人」、後のワーグナー作品に比べるとプロットにどうしても弱さを感じてしまうのだが、今回は歌手陣の声の力ですべてを解決してしまったという感。ターフェル、メルベート、ザイフェルトの三人の競演は迫力満点。ターフェルのオランダ人、声が澄明で重苦しくならないのが吉。このオランダ人は意外と快適にさまよっていて、7年に1度の上陸イベントを楽しみにしているのかも。ザイフェルトは東フィル「フィデリオ」のときと同様、声量が豊かで存在感抜群。舞台上演だったらエリックのような未熟な若者役にザイフェルトはないと思うが、演奏会形式ならありうる。オースボーは急な代役にもかかわらず達者で、どこからどう見てもダーラント。ときどきオーケストラからキュッヒルの音が浮かび上がって聞こえてくる。アフカムは慎重。オーケストラは後半からぐっと調子が上がった。
●財産を持った初対面の男から「娘を嫁にくれ」と言われて、父はその場で承諾し、帰宅したら娘にすぐに男と結婚するようにと伝え、娘は喜ぶ。なんだそりゃ。そんなむちゃくちゃな話なのに、最後には身震いするような感動が訪れるというワーグナー・マジック。客席は沸きに沸いた。
●途中でザイフェルトのメガネがポーンと吹っ飛ぶアクシデントがあったけど、即座にメルベートがナイスキャッチ。華麗なファインプレイを目撃した。
●このシリーズ、スクリーンに映し出された映像がいつもさんざんな言われようなのだが、今回はこれまででいちばんよかったと思う。CGは進化してきているといっても、世間もギュンギュンと進化しているので、その点で目を見張るものはないにせよ、ドラマを味わう手助けとしてきちんと機能している。これがないと閉じた雰囲気の演奏会形式になってしまうので、自分は楽しみにしているし、まだまだ進化するはず。

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