●11日は東京・春・音楽祭でイゴール・レヴィットのピアノ(東京文化会館小ホール)。曲はバッハのゴルトベルク変奏曲のみ。欧州では大評判のレヴィットをようやく聴けた。タブレットPCを持って白シャツですらっと登場する今風の姿とはうらはらに、ピアノに向き合う姿勢は古風な芸術家然とした様子。没入度の高い音楽で、ずしりとした手ごたえを残してくれた。おおむね筆圧の強い音楽でダイナミック、視覚的にも音楽的にもゼスチャーの大きな演奏なんだけれど、耽美でもロマンティックでもなく、気迫のこもった男前のバッハ。自由度高めで、エモーショナル、辛口。第1変奏だったか、バンバンと足を踏み鳴らす場面があって、その後、ときたま片手が空くたびに、手のしぐさで曲想を雄弁に表現するようなこともたびたび(この曲でそんなことをするとたちまちグールドの亡霊がよみがえるのだが、演奏スタイルはぜんぜん違う)。最後は放心したように鍵盤から手をおろす。少し芝居がかっているくらいなんだけど、ものすごく引き込まれるバッハであることはたしか。あちこちに意匠を凝らした演奏で、一か所特にカッコいいなと思ったのは第16変奏の冒頭、分散和音を重々しく奏でて、まるで鐘を打ち鳴らすかのよう。
●リピートありだったので約80分ほどかかったが、極端に感じるテンポ設定はなく、まったく長さは感じず。この曲ではしばしばそうなるけれど、いくぶん儀式に参加したような気分も。終演後はCD購入者向けのサイン会あり。ぜひ近くで顔を拝みたくなって、ご本人が登場するまでじっと待ってしまった。
●譜面台にタブレットPCを置いているのに、譜めくりはいた。いや、譜めくりじゃなくて譜タッチというべきか。画面タッチのためにひとりが専念するというIT革命時代のぜいたくソリューション。フットスイッチ(最近は割と見かける)じゃダメなんだろうか。
April 12, 2019