●今年は偶然にもシェーンベルクの大作「グレの歌」が一年に3回も演奏される「グレグレグレの歌」イヤー。先陣を切ったカンブルラン&読響に続く第2弾は、東京・春・音楽祭の最終日を飾った大野和士指揮東京都交響楽団の「グレの歌」。会場は東京文化会館。ヴァルデマール王にクリスティアン・フォイクト、トーヴェにエレーナ・パンクラトヴァ、農夫に甲斐栄次郎、山鳩に藤村実穂子、道化師クラウスにアレクサンドル・クラヴェッツ、語り手にフランツ・グルントヘーバー(!)。合唱は東京オペラシンガーズ。
●やはり異様なほどの巨大編成から生み出される音響は強烈。一か月前のカンブルラン&読響が極彩色の「グレ」だとしたら、今回は苛烈で凶暴な「グレ」。カオス度はさらに強まっていて、混濁した響きの洪水に溺れる感覚に浸る。
●作品は熟れきった後期ロマン派のウルトラ「トリスタンとイゾルデ」として始まる。進化形ワーグナーであり、先祖には「タンホイザー」や「ラインの黄金」「ジークフリート」「マイスタージンガー」「パルジファル」らの姿も。作品全体に筆致のばらつきが感じられる作品で、第1部はなかなか作品に入り込めないのだが、「山鳩の歌」以降かぜん精彩を放つ。フォイクトがなかなか調子が出ず、一方で藤村実穂子の山鳩があまりに見事というせいもあったか。第1部でも厳しかったので、第2部序盤のオーケストラが激烈に咆哮する場面となればもはや王の歌はまるで聞こえない。でもここはだれが歌っても大音響にかなうはずもなく、神に異議申立てをする人間の王の非力さを表現した場面だと理解。その後の亡きトーヴェへの愛を語る場面は聞こえるように書かれているわけだし。道化師クラウスのクラヴェッツは千鳥足であらわれて、酔っぱらいを演じながら歌う芸達者ぶり。ウィスキーの小瓶を取り出して飲むなど、ひとりだけ演技を入れていて、まるでオペラのよう。道化役ならこれもありか。
●死んだはずのヴァルデマールが家来たちと狩をしながらさまよってるというのは、前回も書いたようにゾンビっぽい。で、それでヴァルデマールはどうなるのかというのが、なんだかよくわからないうちに救済されたっぽくて、「見よ、太陽を」で問答無用で盛り上がって終わる。終わりよければすべて良し、なのか。これって原詩はどうなってるのかなと思うじゃないすか。で、前回、facebookページのほうで原詩の訳があると教えていただいたのがこちらの「グアアの歌」。でもやっぱりなにがどうなってるのかよくわからなくて、むしろ道化師が言う「ウナギというのは奇妙な鳥だ」というのが、なんのギャグなんだか比喩なんだか、わからなくてソワソワする。ウナギイヌなら聞いたことあるけど、ウナギドリなんて聞いたことがないぞ。
April 16, 2019