●20日はNHKホールで山田和樹指揮NHK交響楽団。2016年1月定期以来となる山田和樹とN響の待望の共演。プログラムは前半が平尾貴四男の交響詩曲「砧」と矢代秋雄のピアノ協奏曲(河村尚子)というN響ゆかりの両作品で、後半がシェーンベルクの交響詩「ペレアスとメリザンド」。自国の音楽なんだけど、近くて遠い日本人作曲家の古典。砧という道具自体がすでにエキゾチックであり、由来となった能楽作品もわからない一方で、聴くと冒頭からストラヴィンスキー「火の鳥」が連想されて、どこかなじみ深さも感じるという、ねじれた距離感。矢代秋雄のピアノ協奏曲では、バルトークやメシアンからのエコーを頼りに作品に近づく道を探る倒錯。河村尚子による確信に満ちた気迫のソロに圧倒される。やっぱり名演の蓄積が名曲を作るものなんだと思う。ソリスト・アンコールに矢代秋雄(岡田博美編)の「夢の舟」。
●後半はシェーンベルクが後期ロマン派スタイルの作風で書いた交響詩「ペレアスとメリザンド」。今年、首都圏は「グレの歌」を3団体が演奏するという「グレグレグレの歌」祭りが自然発生的に開催中なのだが、先日の新国立劇場のツェムリンスキー「フィレンツェの悲劇」に続いて、さらにここで交響詩「ペレアスとメリザンド」という強力な番外編が加わって、後期ロマン派の嵐がさらに勢いを増している。平成の終わりに再現される後期ロマン派の断末魔。いったいなにがあったのか、東京。その答えはたぶん、偶然のいたずら。もっとも、この日の演奏からはむせかえるような濃厚なロマンティシズムよりは、4楽章制の交響曲を思わせるような端整な音のドラマを堪能。
●「ペレアスとメリザンド」はよっぽど作曲家のインスピレーションを刺激する題材だったようで、この交響詩以外にも、フォーレの劇付随音楽、ドビュッシーのオペラ、シベリウスの劇付随音楽があって、しかもそれぞれが名作として演奏され続けているのがすごい。ドビュッシーの決定的な傑作がなければ、シェーンベルクだってオペラかオラトリオを書きたかったにちがいない。というか、結局は「グレの歌」を書いているわけで、大きく言えば題材としては「トリスタンとイゾルデ」「ペレアスとメリザンド」「グレの歌」は似たような骨子を持っているともいえる。ワーグナー、すごっ。あ、でも「グレの歌」はゾンビものなんだった。
April 22, 2019