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April 24, 2019

マリノスとポステコグルーの聖杯探し

聖杯●第6節で浦和相手に快勝したマリノスだが、その後は勝利から見放されている。第7節は名古屋相手に1対1の引分け、第8節は札幌相手に0対3で完敗。この間、ルヴァン・カップもあったが長崎相手に引分け。ポステコグルー監督のもと、超攻撃的な戦術を採用するマリノスだが、名古屋と札幌のようなポゼッション志向の相手に苦戦しているのが気になるところ。気がついたら順位は9位にまで落ちていて、得失点差はぴったりゼロ。つまり、あんなに尖がった戦術で派手な戦い方を続けてきた結果、戦績はリーグ全体のちょうど真ん中、平凡そのものだ。こういうのをなんといえばいいんだろう。大山鳴動して鼠一匹? ともあれ、リーグ戦はまだまだこれからだ。
●理屈の上では、現代サッカーはハイリスクな戦い方をしたほうが得だ。仮に得点を増やそうとすれば同じだけ失点も増えるとすると、1点を争うゲームよりは、2点、3点、極端に言えば10点を争うゲームのほうが有利のはず。なぜなら引分けなら勝点1しかもらえない。だったら、ドンパチ点を奪い合って、勝つか負けるかのどちらかに結果が偏るような戦いをすれば、勝点は3または0になる。つまり、もし引分けがなければ、一試合につき勝点の期待値は1.5だ。1点を争うゲームより、10点を争うゲーム(なんなら100点を争うゲーム)のほうが引分けになりにくい。だから、本質的にはポステコグルーのように「勝つか負けるか」の戦術を採ったほうが、チームの実力が同じでも勝ち点は増える。10試合して10引分けなら勝点10だが、5勝5敗なら勝点15だ。同じ「中くらい」の戦力のチームでも、戦い方次第でこんなに勝点が違ってくる……。
●が、ほとんどのサッカー・ファンは上記の話はおかしいと感じるのではないだろうか。現実にはどのリーグでも、強いチームというのはたいていディフェンスがしっかりしているチームであって、ボカスカ点を取り合っているチームは一時的に強くても最終的には勝てない。それがサッカーの常識。事実、昨季のポステコグルー監督はリーグ全体で中くらいの戦力で超攻撃的に戦った結果、降格争いに巻きこまれたではないか。なぜそうなるのか。
●たぶん、それはカウンターアタックの優位性が関係している。1点多く得点するリスクを取ると、1点ではなく1.1点とか1.2点くらい多く失点するリスクが高まるんじゃないだろうか。10点取ろうとする監督はいないが、0対0で試合を進めてあわよくばカウンターで1点を狙う監督はたくさんいる。つまるところ戦術とは、この攻守の非対称性にどう挑むか、という話なのかもしれない。戦術家の仕事は、1点多く得点するリスクを取って、0.9点だけ多く失点する戦術を見つけるという一種の聖杯探しなのだろうか。