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May 9, 2019

シャーロック・ホームズとヴァイオリン

●当欄でなんどか話題にしているが、しばらく前からコナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズを新訳でちびちびと読み進めている。ドイルが書いた「正典」は案外少なく、短篇集が5冊、長篇が4冊しかない。本領が発揮されているのは短篇集のほうで、長篇はむしろ番外編的な雰囲気がある。長篇でもたしかにホームズは登場するのだが、むしろサイドストーリーのほうが主になるパターンが多いので。たとえば、「緋色の研究」では、荒野で遭難した男とその養女が、初期のモルモン教徒の集団に救われるも、年月を経て今度はその集団から逃れられなくなるというストーリーが描かれる。一夫多妻制のモルモン教が支配するソルトレイクシティで起きた悲劇が話の柱であって、ホームズとワトソンははるか遠くのロンドンで幕引き役を引き受けたに過ぎない。
●ところで、この「緋色の研究」にはホームズがヴァイオリンについて蘊蓄を傾けるシーンが出てくる。

ホームズはひどく上機嫌で、クレモナ製のヴァイオリンの話、特にストラディヴァリウスとアマティの違いなどについて、とめどもなくしゃべり続けていた。一方わたしのほうは、うっとうしい天気と、陰鬱な事件現場に向かっているせいですっかり気が滅入り、黙りこくっていた。(日暮雅通訳/光文社文庫)

ワトソンにとってはストラディヴァリウスとアマティの違いなど、まったくどうでもいい話にちがいない。一方、ホームズがこの話題に熱心なのは当然のことである。なにしろホームズのヴァイオリンはストラディヴァリウスなのだ。
●とうわけで、ホームズとヴァイオリンの関係について、ONTOMOの連載で「シャーロック・ホームズの音楽帳 その1〈ヴァイオリン篇〉」として書いた。ホームズがどうやってストラディヴァリウスを手に入れたのか、気になる方はご笑覧ください。