●15日はトッパンホールで「ロナルド・ブラウティハム ― ワルトシュタインを弾く」。ブラウティハムがフォルテピアノを演奏。楽器はポール・マクナルティ製作のワルター1800年頃モデル。プログラムが実に魅力的で、前半にハイドンのピアノ・ソナタ第49番変ホ長調とベートーヴェンのピアノ・ソナタ第3番ハ長調、後半にハイドンのピアノ・ソナタ第52番変ホ長調とベートーヴェンのピアノ・ソナタ第21番ハ長調「ワルトシュタイン」。やはりハイドンのソナタはこの2曲が最強では。そして、前後半ともに変ホ長調のハイドンとハ長調のベートーヴェンを並べての師弟対決。両者の類似性も対照性も伝わってくるようなプログラム。
●前半のハイドンの第49番とベートーヴェンのソナタ第3番はほとんど作曲年が変わらない。ハイドンのほうが3、4年ほど早いくらい。両曲の時点ではハイドンは円熟の巨匠、ベートーヴェンはいくぶんトリッキーな野心家といった感じだろうか。ベートーヴェン作品は師ハイドンに献呈されている。ハイドン作品は凝縮されていて、まったく隙がない。師の圧勝だ。しかし後半になると立場が逆転する。「ワルトシュタイン」は未来の音楽。ハイドンの第52番の終楽章、同音連打の主題が特徴的だが、これに「ワルトシュタイン」冒頭の連打が続くという流れが鮮やか。そして、「ワルトシュタイン」ではフォルテピアノの音域ごとの音色変化が効果を発揮する。第2楽章の色調の移ろい、第3楽章で高音域で飛翔する主題の神々しさ。モダンピアノであればごくおとなしい選曲が、フォルテピアノでは超越的な選曲として提示される。どんな人間もモダンピアノを屈服させることはできないが、ベートーヴェンはフォルテピアノを軋ませ、悲鳴をあげさせる。
●ブラウティハムのベートーヴェンは凛々しく、剛健、端正。楽譜あり、譜めくりなしのハッピー仕様。自分でめくるが吉。アンコールにベートーヴェン「悲愴」第2楽章。
May 16, 2019