●18日は東京オペラシティでジョナサン・ノット指揮東京交響楽団。プログラムはノットならではの現代ものと古典とのコンビネーションで、前半にブーレーズの「メモリアル(…爆発的ー固定的…オリジナル)~フルートと8つの楽器のための」(フルートは相澤政宏)、ヤン・ロバン(ロビン)の「クォーク~チェロと大編成オーケストラのための」(2016年初演)、後半にベートーヴェンの交響曲第7番。ありきたりの曲では満足できないお客さんも、有名曲を聴きたいお客さんも両方満足できるという意味で、これこそ真の「万人向け」プログラムなのかも。客入りは上々。
●「クォーク」は以前のシーズンラインナップ発表記者会見で「すごい曲だ」とノットが期待を煽っていたが、これはすさまじい噪音の連続体。大枠の作りとしては、強烈な打撃音を伴うパルスが数秒程度の周期で連続し、その管弦楽の轟音の海でエリック・マリア・クテュリエによる独奏チェロがほぼ休みなく超絶技巧を繰り出しながらもがき、格闘し続ける。最後は21世紀版「春の祭典」みたいな擾乱に至り、やがて静寂が訪れる。これがなぜ「クォーク」なのか。なんら素粒子的なイメージを喚起する曲ではないようにも思うが、あえていえば巨大な粒子加速器を連想させるとか? よくわからないんだけど、思わせぶりなタイトルは吉。続くベートーヴェンの交響曲第7番との関係性でいえば、パルスの音楽とリズムの音楽といった対照を見てとることができるだろうか。大音響の音楽の後に、クテュリエはアンコールとして静かなモノローグの音楽を聴かせてくれた。クルタークの「チェロのためのサイン、ゲーム、メッセージ」から「ピリンスキー・ヤーノシュ:ジェラール・ド・ネルヴァル」(たぶん)、バッハの無伴奏チェロ組曲第5番の「サラバンド」をつなげて演奏。
●しかし真の驚きは後半のベートーヴェンの第7番。この曲、「のだめ」以降に演奏機会がすさまじく増えてしまって新鮮な感動を覚えるのが難しくなっていたが、この日ほどエキサイティングな第7は過去にさかのぼっても思い出せないほど。第1楽章の再現部でオーボエが独自の小カデンツァを入れたり(第5番「運命」で記譜されているみたいに。ハッとする)、第2楽章でクラリネットが装飾を加えたりと即興的な趣向も効果抜群。第1楽章から第2楽章へは緊張感を緩めずアタッカで。終楽章で吹き荒れる熱風は「クォーク」の狂宴すらかすませるほど。エネルギッシュだが、決して雑ではなく、潤いのある東響サウンドあってこその大名演。客席の反応は熱くて暖かい。スタンディングオベーションの大喝采のなかでノットのソロ・カーテンコールに。近くに座っていたあまり慣れていないと思しきご婦人が、戸惑いながら「えっ、これはいつもこういうものなのかしら? 違うわよね。きっと今日はよかったのよね」と口にしていたが、なんという引きの強さ。最強です。
May 21, 2019