●メインで使っているデスクトップPCのWindows 10に、最新バージョン1903が降ってきた。ずっと1803のままアップデートされず、1809はいつになったらやってくるのだろうと訝しんでいたら、ひとつ飛ばして1903がやってきた。液晶モニターを買い替えた直後に降ってきたから、ディスプレイドライバ絡みで更新が滞っていたんだろうか? 今は年に2回、こうして大型アップデートがやってくる形になっているが、ひとつ飛ばしでスムーズに更新できるものかドキドキ……。いや、できて当たり前だし、実際に拍子抜けするほどあっさりできたんだけど。
●で、Windows 10の1903だが、あちこちと細かなところで便利になっている。いちばんありがたいと思ったのは、標準フォントとしてモリサワのBIZ UDゴシック(サンプル:上)がインストールされたこと(これは前回の1809から入っていたのかな?)。とてもいい。少々地味めのデザインだが、視認性が高く、画面表示フォントに向いている。自分は常に原稿をテキストエディタで書いているのだが、Windowsに標準でインストールされているフォントにどうしても気に入るものがなく、わざわざVLゴシックというフリーのフォントをインストールして使っていた。VLゴシックのいいところは、「パ」と「バ」の区別が容易につくところと、等幅フォントであること。「パ」と「バ」の区別なんてできて当たり前のことだが、原稿書きに使うフォントでは大げさなくらい区別されていてほしい。それと等幅フォントでなければ、書いていて字数がわからないので困る(常に20字詰めで何行目まで来たかを意識して書くので)。で、これを満たすためにVLゴシックを使っていたのだが、今回新たにインストールされたBIZ UDゴシックを使ってみると、なかなか使い心地がいい。「パ」と「バ」の区別はVLゴシックには劣るものの、まずまず。
●Windowsのフォントといえば、1803にアップデートされた際に、やはりモリサワのUDデジタル教科書体(サンプル:下)が標準でインストールされるようになった。このフォントもとてもいい。こちらは校正用の印刷フォントとして秀逸。今のところ、画面上で書くときはBIZ UDゴシック、印刷して校正するときはUDデジタル教科書体という使い分けが気に入っている。
2019年6月アーカイブ
Windows 10をひとつ飛ばしでアップデート バージョン1803から1903へ
ベルリン・バロック・ゾリステン with 樫本大進&ジョナサン・ケリー
●26日はすみだトリフォニーホールで「ベルリン・バロック・ゾリステン with 樫本大進&ジョナサン・ケリー」。ベルリン・バロック・ゾリステンは、かつてベルリン・フィルのコンサートマスターであったライナー・クスマウルが創設した、ベルリン・フィルのメンバーを主体とするバロック・アンサンブル。それが今やムジカ・アンティクヮ・ケルンを率いて活躍したラインハルト・ゲーベルを音楽監督に迎えている。つまり、古楽出身の指揮者たちがモダン・オーケストラに盛んに客演するようになったのと裏返しの関係にあって、ベルリン・フィル(のメンバー)側がゲーベルの門を叩いている。時代は変わる。ただし、今回の公演ではゲーベルは来日せず、現在のベルリン・フィルのコンサートマスターである樫本大進、そして首席オーボエ奏者のジョナサン・ケリーをソリストに招いている。コンサートマスターはヴィリ・ツィンマーマン、フルートにスザンネ・ホプファー=クスマウル、チェンバロはラファエル・アルパーマン。
●プログラムは前半がバッハ、後半がヴィヴァルディという構成。バッハのフルート、オーボエ・ダモーレとヴァイオリンのための三重協奏曲ニ長調BWV1064 (ヴィンシャーマン版)、ブランデンブルク協奏曲第5番、ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲ニ短調BWV1060、ヴィヴァルディの協奏曲集「四季」。最初のバッハ2曲はアンサンブルのサイズに対してホールが大きすぎるということなのか、ステージが遠く、表現も抑制的に聞こえていたのだが、3曲目から樫本大進が登場すると響きは一変。一気に生命力に富んだ雄弁なバッハに。後半の「四季」はますます起伏に富んだ演奏で、アーティストたちとの距離感がぐっと縮まった。四季折々の場面の描写性も豊か、なによりメンバーが樫本に引っ張られて生き生きと弾きまくっているのが気持ちいい。モダンなヴィヴァルディ。最初はバロック・アンサンブルだったのが、最後はすっかりプチ・ベルリン・フィルになっていたというか。アンコールは「冬」の第2楽章。今風の快速テンポ。本編よりいっそう自由に。
「モスクワの伯爵」(エイモア・トールズ著/早川書房)
●あらすじと書影だけを目にして「これは傑作ではないか」と確信して読み始めたが、期待を上回る傑作。最近、これほどおもしろくて味わい深い小説を読んだだろうか。「モスクワの伯爵」(エイモア・トールズ著/早川書房)の舞台はモスクワの高級ホテル、メトロポール。帝政ロシアが革命を経てソ連へと変貌する時代が描かれる。1922年、主人公であるロストフ伯爵は革命政府により裁判にかけられ、反革命的な詩を書いた罪により、ホテルから一歩でも外に出れば銃殺されるという軟禁刑に処される。生涯をホテルの屋根裏部屋で暮らすことになった元貴族が、移り行く時代をホテルから一歩も出ずに生きる。
●伯爵の人物像が魅力的。ユーモアと教養があって、官僚的なソ連時代にまったく似合わない貴族的なふるまいを貫く。伯爵の口からは箴言が次々と出てくるが、終生の軟禁刑に直面して、まず彼が指針として掲げたのが「自らの境遇の主人とならなければ、その人間は一生境遇の奴隷となる」。その通り、伯爵はホテルのなかでさまざまな人々と出会い、豊かな人生を味わう。その展開が秀逸。どんな結末もありうる設定だが、読後感は悪くない。
●なにしろ舞台が高級ホテルで、伯爵が食通ということもあって、食事にまつわるシーンの描写が詳細なのも特徴的。あと、クラシック音楽ファンであればより楽しめる箇所がいくつか。ホテルの宴会用食器置き場で、ある少女からこの道具はなに?と尋ねられて、伯爵はこんなふうに答える。
「アスパラガスを取り分ける道具だよ」彼は説明した。
「宴会では本当にアスパラガスの道具が必要なの?」
「オーケストラにはバスーンが必要だろう?」
エクアドル代表vsニッポン@コパ・アメリカ2019ブラジル グループステージ
●以下、今朝の試合の結果に触れるので、後からオンデマンドで楽しみたい方はご注意を。コパ・アメリカ、第3戦は対エクアドル代表。ここまでニッポンは1敗1分。お互いに勝てば決勝トーナメント進出が決まるという状況。森保監督は前のウルグアイ戦から安部裕葵を外して久保を先発に復帰させた。あとは同じメンバー。GK:川島-DF:岩田智輝、冨安、植田、杉岡大暉-MF:板倉滉(→前田大然)、柴崎-三好康児(→安部裕葵)、久保建英、中島翔哉-FW:岡崎(→上田綺世)。
●エクアドルは身体能力の高いチーム。前線からプレッシャーをかけてくる。互いに攻撃的でニッポンと似たような戦い方。4バックなのも同じ。オープンに攻め合う展開になり、前半15分、中島のスルーパスに岡崎が抜け出る。相手キーパーが飛び出して弾いたボールを、中島が蹴り込んでゴール。ここでVARの待ち時間が入り、岡崎にオフサイドがなかったかを確認。無事にゴールが認められてニッポンが先制。
●その後、川島の大チョンボからあわや失点のピンチを迎えるなど、自陣深くでパスをミスして相手に決定機を与えるシーンが目立つ。川島はベテランになってから不安定になった印象がある。前半35分、右サイドからゴール間に山なりに放り込まれたボールに競り負けてシュートを打たれる。いったんは川島が弾いたが、メナにこぼれ球を押し込まれて同点。1対1。前半はスコアも内容も五分五分の展開。
●後半途中で、岡崎が大学生の上田と交代。立て続けに上田に3度のシュート・チャンスが訪れるがすべて決まらず。上田が入るとチャンスは増えるのだが、ことごとく決まらない。後半はニッポンが攻めて、エクアドルがカウンターで反撃するという流れに。攻撃の中心は常に中島と久保。終盤、前田を投入して前がかりな布陣に。終了間際に久保の縦パスから前田がキーパーとの一対一を迎えるが、決めきれず。こぼれ球を上田が蹴り込むがこれも入らない。3戦とも上田のシュートはなぜか入らない。アディショナルタイム、久保のシュートがネットをゆらすが、これはオフサイド。VARで確認しても判定は覆らず。エクアドルにもいくつか決定機があったが得点は生まれず、1対1で引き分け。両者、敗退決定。
●内容ではややニッポンが上回っていたので、勝利を逃したのは惜しい。この試合、センターバックの冨安に改めて感心。冷静で、足元の技術も確かで、後方からゲームを組み立てるのには欠かせない。板倉はこの試合では落ち着いたプレイができた。中盤の底の大型選手はニッポンでは貴重。オリンピック世代の若い選手たちにとっては経験値という点で大きなボーナスステージになった。まあ、オリンピックの開催地が東京でなければ、U23の大会にすぎないのだが……。川島と岡崎はこれが最後の代表戦出場になるかもしれない。ふたりとも来季の所属先が決まっていないようなので、森保監督が活躍の場を与えてくれたという面もあったと思う。
ウルグアイ代表vsニッポン@コパ・アメリカ2019ブラジル グループステージ
●コパ・アメリカの第2戦、相手はウルグアイ。チリに続いて、またも強豪。苦し紛れのメンバー編成で臨んだニッポン代表だが、アウェイでこのクラスの相手と真剣勝負ができるという経験は貴重。森保監督はチリ戦から大幅にメンバーを入れ替えてきた。川島、岡崎といったベテランの先発が目をひく。チリ戦でもっとも光っていた久保はベンチへ。岩田と板倉が代表デビュー。GK:川島 -DF:岩田智輝(→立田悠悟)、植田直通、冨安健洋、杉岡大暉-MF:板倉滉、柴崎、中島、三好康児(→久保)、安部裕葵(→上田綺世)-FW:岡崎。中継はDAZN。現地映像が前の試合に続いてニッポンのフォーメーション予想を3バックで表示しているのだが、実際には前の試合も今回も4バック。まあ、ワタシだって知らない選手が何人もいるニッポン代表なんだから、現地映像の予想が見当外れでも無理はない。ウルグアイにはもちろんスアレスもカバーニもいる。
●序盤は意外にもニッポンがボールを保持。三好の低いクロスから岡崎が惜しいシュート。スアレスのロングシュートにヒヤリ。板倉は少しミスが目立つ。ウルグアイはカウンターから右サイドのカバーニを使って大きなワンツーからクロスを入れて、スアレスがビッグチャンスを迎えるも、キーパー川島の正面。攻撃の中心は中島で、ドリブル、キープ力はこの相手にも有効。
●前半25分、三好が個人で縦に突破して浅い角度から見事なシュートで代表初ゴール。これは鮮烈。マリノス者としてはお祝いしたいところだが、三好の本来の所属は川崎。おまけにこの日の大活躍で、そう長く日本にはいてくれそうもない予感。前半31分、ゴール前でのカバーニと植田の競り合いで、VARで植田がファウルをとられてPK。こんなのVARがなければまずPKの判定など出ないはず。スアレスが決めて1対1の同点。VARという仕組み、これでいいんだろうか。
●後半も攻め合いが続く。三好が決定機に決められず、そのままカウンターからカバーニが決定機を迎えるがこれも決まらず。後半14分、左サイドの杉岡のクロスから岡崎のヘディング、GKからのこぼれ球を三好が易々と押し込んで2点目。よもやの三好の2ゴール。しかし後半21分、左コーナーキックからヒメネスが富安を振り切って頭で決めて同点、2対2。ここから後は、ウルグアイの猛攻が続いて、ひたすら耐える展開に。なんどかクロスバーに助けられた。交代出場の上田は、やはり動きにキレがなく通用していない。運動量も落ち、防戦一方になってしまったが、2対2で引き分けた。勝てるチャンスもあったが、このメンバー、このシチュエーションで勝点1は大健闘。3戦全敗で当たり前くらいのメンバーだったのに、次のエクアドル戦に勝てば決勝トーナメント進出の可能性もある。やはりサッカーはやってみなければわからない。岡田武史の名言「ランクで決まるなら試合はいらない」を思い出す。
パーヴォ・ヤルヴィ&N響のメシアン「トゥーランガリラ交響曲」
●20日はサントリーホールでパーヴォ・ヤルヴィ&N響のメシアン「トゥーランガリラ交響曲」。一曲のみのプログラム。弦楽器はいつもの対向配置ではなく、音域順に並べる通常配置(もうどっちが「通常」なんだかわからなくなりつつあるが)。そして鍵盤楽器群を協奏曲のソリストのように最前列に置いた。指揮者の背後、上手にオンドマルトノ、下手にピアノ。チェレスタ、ジュ・ドゥ・タンブルも下手側。ピアノはロジェ・ムラロ。雄弁。遠目から見ても手が大きい。オンド・マルトノはシンシア・ミラー。
●なかなか聴けなさそうでいて、実は演奏頻度が高い「トゥーランガリラ交響曲」。20世紀の古典というか、もはや人気曲。パーヴォの「トゥーランガリラ」には、濃厚な愛の歌という以上にアスリート的な俊敏さを感じる。切れ味鋭く、歯切れ良い。極彩色というよりは彩度をやや抑え気味のカラフルさで、洗練されている。最後はリミッターを外して大音響で壮麗に曲を閉じた。毎回、高水準の演奏を聴かせてくれるこのコンビではあるけど、なかでも今回は出色の出来だったのでは。
●ステージ上にマイクが林立していた。今回もソニーの録音があった模様。
バイロム社の記憶
●先日、「平成日本サッカー 秘史 熱狂と歓喜はこうして生まれた」 (小倉純二著/講談社+α新書) を読んでいたら、バイロム社の話題が出てきて、久々にワールドカップ2002日韓大会のことを思い出した。そう、あの悪名高いバイロム社だ……といっても、もう覚えている人は少ないか。この本でも著者の小倉純二氏がバイロム社の酷さに「はらわたが煮えくり返った」と記している。このイギリスの会社は海外分のチケット販売を一手に引き受けていたのだが、とにかく仕事が杜撰。日本側じゃ全試合で熾烈なチケット獲得競争がくりひろげられているのに、バイロム社は売れ残ったチケットを放置してしまい、売り切れたはずの試合で大量の空席が出た。きわめつけは決勝トーナメントのニッポン対トルコ戦で、まさかのニッポン戦で空席がごっそり出る始末。小倉氏によれば、あれはバイロム社が良席をなぜか「見切れ席」として売らなかったから。実際にはバックスタンド正面のエリアなのに。しかもバイロム社は不手際を指摘されると、日本側の対応が悪かったせいだと事実無根の釈明をして、いっそう事態を紛糾させた。ほかにもチケットが届かないなど、バイロム社はありとあらゆるトラブルを起こした。
●でも、日本のサッカー・ファンはあのとき学んだ。「これが世界だ」。物事は決して日本式には進まない。ルールが決められていても、そんなものが守られるかどうか、実際に始まってみないとだれもわからない。FIFAに人脈があるだけの小さな会社が大仕事を受注したが、やってみたら仕事は穴だらけ、ありえないミスが次々と起きる。担当者の胸先三寸でチケットはどこに行くかわからない。だったら、われわれファンも世界基準でチケット争いに加わればいいのでは? ルールより現実を優先しよう。あのときそういう機運が芽生えた。そこで、バイロム社の不備を突いて、本来なら日本人には買えないはずの海外向けチケットを購入する方法がないかとさまざまな作戦が立てられた。そして発見されたのが、海外向けのチケット販売サイトでウェブブラウザに対してある種の方策をとると(cookieの操作だったような記憶)日本からは買えないはずのチケットが買えてしまうという荒技。もちろん、ネット上で買えても、決済後にキャンセルされたり、チケット送付が拒否される可能性もあったが、一部の日本のファンはこの技でまんまとバイロム社を出し抜くことに成功した。
●いや、違うな。バイロム社にとっては売れればなんだっていいんだから、わざと穴をふさがなかったのかも。彼らと日本のファンの間で無言の取引が成立しただけともいえる。ワールドカップからはいろいろなことを学べる。
あらゆるメモをGoogle Keepに集約する
●なんとなく使い始めてみたら、いつの間にかすっかり手放せないアプリになったのがGoogle Keep。クラウド上になんでもメモできる。Androidスマホなら最初からインストールされているはず。PC上ではChromeから使う。スマホからもPCからもひんぱんに使っている。
●「あ、マーマレードがなくなりそうだから買わなきゃ」と思ったら、ささっとKeepにメモする。「このサイト、おもしろいからまた来よう」と思ったら、Chrome上でワンクリックでKeepへ。買い物リストを筆頭に、自分のシャツや靴のサイズだとか、料理のレシピ、仕事上のアイディア、気に入ったダジャレ、翻訳サイトへのリンク、こんど行ってみたいお店、タクシー会社の電話番号、よく行く公園の園内マップ、さっき会った人の名前、歌詞対訳、よく飛ぶ紙飛行機の作り方、各種会員証の写真(メモ代わり)、前回美容院に行った時の髪型の写真(次回用)、「お米1合は150g」みたいな便利メモ、図書館カードの会員番号、いつまでたっても覚えられない異国の指揮者の難しすぎる名前、けん玉の最高記録、行きたいけど決して行かないだろうリゾートホテルへのリンク、必殺技の名前……等々、なんでもメモする。写真も、手書きメモも、音声も貼れる。スマホに向かってしゃべれば音声認識してテキスト+音声データで記録してくれる。
●で、Keepではこういう雑多なメモが垂直的に蓄積されていく。必要なら検索もできる。要らなくなったメモはアーカイブにしまっておく。買い物リストなんかは常時いちばん上に固定。ラフな使い方に向いていることと、ChromeなどGoogleアプリとの連携がスムーズなのが魅力。基本、メモを整理するのが苦手な人こそ重宝する。
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●宣伝を。「埼玉アーツシアター通信」Vol.81でホルン奏者シュテファン・ドールのインタビュー掲載中。9月に来日するアンサンブル・ウィーン=ベルリンについて。もうひとつ、Qeticにチェロのジョヴァンニ・ソッリマのインタビュー。こちらは8月の「100チェロ」企画について。どちらもメール・インタビュー。最近、自分のインタビュー仕事はメール専門になりつつある。
ニッポンvsチリ代表@コパ・アメリカ2019ブラジル グループステージ
●コパ・アメリカ2019ブラジル大会が開幕。本来ならニッポンに参加資格のない大会だが、今回2度目の招待参加。前回は1999年、トルシエ監督時代。そのときは1分2敗で、手も足も出なかったという印象。で、今回。当時よりニッポンはずっと強くなっているはずだが、各クラブの協力を得られず森保監督はベストメンバーを組めず。知らない選手がたくさんいる「だれなんだジャパン」状態。柴崎と中島が頼みの綱か。そして、DAZNが独占中継する。地上波でもBSでも見れないが、ネットで見れる(ら抜き)。そんな時代がついに。追っかけ再生できて便利。
●で、本日朝8時のニッポンvsチリ戦。ニッポンのメンバーはGK:大迫敬介-DF:原輝綺、植田直通、冨安健洋、杉岡大暉-MF:中山雄太、柴崎岳-中島翔哉(→三好康児)、久保建英、前田大然(→安部裕葵)-FW:上田綺世(→岡崎慎司)。FC東京からレアルマドリッドに移籍すると発表された久保建英が先発。前田大然は松本山雅のスピードスター。上田綺世は、なんと、法政大学体育会サッカー部所属の大学生だ(鹿島への入団が内定)。新鮮すぎる。久保がトップ下。
●一方、大会二連覇中のチリは豪華メンバー、ベテランぞろいで対照的。試合前の国歌斉唱では、チリ国歌が途中から伴奏と合わずにカオスに。例によって、FIFAの規定で録音では短縮バージョンの伴奏が流れているのだが、観客も選手もみんな伴奏を無視して長いバージョンを歌う。ブラジルはじめ、長い国歌を持つ南米の代表ならではの抗議。
●序盤は久保を中心にニッポンが意外にも攻勢。しっかりとチャンスは作れているし、惜しいチャンスも。オープンな攻め合い。進むにつれてチリがペースを握り、41分、コーナーキックからプルガルが打点の高いヘディングで先制ゴール。前半終了間際、柴崎のパスから上田がキーパーと一対一になるが、決めきれず。
●後半9分、ゴール前にはりつけにされたところで、バルガスが強烈なシュート、富安をはじいてゴール。ニッポンは柴崎のクロスから上田が好機を迎えるも決められず。上田はこの日、チャンスをことごとく生かせず。動きにキレもない。久保は華麗なワンツーから惜しいチャンス。久保はなんども相手を交わしてチャンスを作り出していて、中島以上に攻撃の中心になっていた。後半途中から、ニッポンは左右両サイド、続いてトップの選手を交代。ここで一点でも返せればまったく違った展開もあっただろうが、後半37分、ゴール前で左右に振られて最後はサンチェスの頭で3点目。さらに直後、ディフェンスラインの裏の広大なスペースに抜け出たバルガスがループでキーパーの頭上を越して4点目。0対4という屈辱的なスコアで終わった。
●全体としてはニッポンもかなり攻撃が機能していて、シュート数も相手と遜色ないくらいなのだが、結果は大量失点のワンサイドゲーム。決定機をなんどか続けて外すと、ここまでの差になる。試合後のインタビューで柴崎が言っていたようにインテンシティの差もあった。球際の争い、ハードワークという点でチリが一枚上手。ニッポンでよかったのは久保、柴崎。苦し紛れのメンバー編成を考えれば、結果に驚きはない。
パーヴォ・ヤルヴィ指揮NHK交響楽団のウェーベルン、ベルク、ブルックナー
●14日はNHKホールでパーヴォ・ヤルヴィ指揮NHK交響楽団。バッハ~ウェーベルン編の「リチェルカータ」、ベルクのヴァイオリン協奏曲「ある天使の思い出に」、ブルックナーの交響曲第3番(第3稿)。つまりバッハを再構築したウェーベルン、バッハを引用したベルク、ワーグナーを引用した(けど削除した)ブルックナーという、先人へのリスペクトから生まれた名曲が並ぶ。おもしろい。ゲスト・コンサートマスターにミュンヘン・フィルのナストゥリカ・ヘルシュコヴィチ。とても大柄で、しばしば腰を浮かせながら弾く。ヴィオラのトップにベルリン・フィルで見かける男性。
●シャハムはベルクのような作品を弾いてすら、どこか楽しげ。音楽の愉悦を伝えてくれる。レクイエム的な要素よりも耽美さが前面に。ソリスト・アンコールはやはりバッハ。無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番からガヴォット。朗々とした明るい響きがベルクの厚い雲をパッと吹き飛ばす。楽器が奏者と一体化して鳴り切っているかのよう。
●典型的な「ブルックナー行列」プログラムなので、休憩に入るとまたたく間に男性側に長蛇の列ができた。しかし、しばらくするとすっと解消。休憩が20分になった明確な効果がここに。って、なにを観察しているのだ、ワタシは。
●ブルックナーの交響曲第3番(第3稿)、この曲は労作感があるというか、少しつなぎ目の見える曲だと思う。パーヴォらしくテンションの高い鋼のブルックナーながら、第3楽章のトリオで思い切り田舎風のひなびたテイストを出すなど、あちこちにユーモアも。第4楽章冒頭の弦、アクセントをはっきり付けてリズミカルなのがかわいい。ラストのコーダは最強のカッコよさ。
●NHKホールからの帰り道、渋谷駅近辺で大勢の女子たちがタピオカミルクティーらしきものを手にしていた。ブームは実在した。NHKホールの売店にタピオカドリンクが並ぶ日も近い……かも。
山田和樹指揮読響のゴジラvsカリンニコフ
●13日はサントリーホールで山田和樹指揮読響。プログラムが快挙。伊福部昭の「SF交響ファンタジー」第1番、グリエールのコロラトゥーラ・ソプラノのための協奏曲(アルビナ・シャギムラトヴァ)、カリンニコフの交響曲第1番。なんと、定期公演で「ゴジラ」を聴けるとは。そして、チラシのデザインが最高にふるっている。「出撃!シン・ヤマカズ」って。シン・ヤマカズvs旧ゴジラ。そして北海道+ロシア・プロとも言える。
●伊福部昭の「SF交響ファンタジー」第1番、これを聴けばどうしたって胸が熱くなるのだが、速めのテンポでぐいぐいと進撃する様は爽快。自衛隊の戦闘機がゴジラにミサイルを撃ち込む様子が目に浮かぶ。曲が終わったら、客席に「イェーイ!」みたいな盛り上がりがあって納得。ていうか、よく考えたらこの曲、客席でコスプレもありえたのだと気づく。前に藤倉大さんが「ソラリス」がどこだったか海外で上演された際に、「こういう作品だと客席にコスプレのお客さんが来てくれて……」みたいなことを言ってたけど、SF/特撮/アニメ系にあるコスプレ・カルチャーって、日本のオーケストラの客層とはまだ遠い感じ。あるいは自分が気づかなかっただけで、客席のどこかに自衛隊コスプレとか「シン・ゴジラ」の蒲田くんコスプレのお客さんがいたのだろうか。
●グリエールのコロラトゥーラ・ソプラノのための協奏曲は、もうひたすら歌手の超絶技巧のために書かれたような作品で、曲はともかく、歌手のアルビナ・シャギムラトヴァがすごすぎる。この曲だけでも相当なものなんだけど、アンコールでアリャビエフ「ナイチンゲール」(夜鳴きうぐいす)を歌って、これでもかというくらいにコロラトゥーラの技巧を見せつける。強烈なヴィブラートでホールの空気がびりびりと振動する。
●後半はカリンニコフの交響曲第1番。この曲は「有名な隠れた名曲」という不思議なポジションを確立している。あるいは、「みんなに人気の隠れ家レストラン」というか。ネーメ・ヤルヴィとN響で聴いたのは3年前。聴けないようで、意外と聴ける。古典的な交響曲のフォーマットにロシア民謡風のメロディが散りばめられた、本当によくできた曲。チャイコフスキーの前半3曲の交響曲が少し近いか。あの民謡風主題は、元ネタの民謡があるのか、それとも作曲者の創作なのか、どっちなんだろう。創作だとしたらドヴォルザーク級のすごさ。曲の出来ばえからするともっとメジャーになってもよさそうなのに、なぜかマイナー感がついてまわる謎。真摯な演奏で、推進力にあふれ、熱量も十分。ひたすら楽しい一夜。
「平成日本サッカー 秘史 熱狂と歓喜はこうして生まれた」 (小倉純二著/講談社+α新書)
●小倉純二著「平成日本サッカー 秘史 熱狂と歓喜はこうして生まれた」 (講談社+α新書) 読了。著者は元日本サッカー協会会長(というか専務理事時代のほうが記憶に残っている)であり元FIFA理事。貴重な昔話から、近年のサッカー事情に至るまで、興味深い話が山ほど書かれている。半ば自伝的であり、半ばサッカー国際政治論でもある一冊。もともと古河電工の一社員にすぎず、なんのサッカー経験もなかった氏が、やがてJリーグ設立の立役者になり、さらにアジアサッカー連盟やFIFAで外交的な手腕を発揮していく。ワールドカップを日本に誘致した際には、日韓共催での日本側の総責任者にまでなる。日本におけるサッカー人気とサッカー界の地位向上は、ピッチ上の選手たちの活躍以上に、その周囲で働くサッカー人たちに支えられてきたのだと痛感せずにはいられない。その決断力と実行力は並大抵のものではない。日本のプロ・サッカーって、設立に関わる人が元代表選手も含めて、多くが国際的な大企業でばりばりと働く本物のビジネスマンだったから、うまくいった面が確実にあると思う。
●近年の話では、第8章「黒いワールドカップ FIFAスキャンダル」がおもしろい。前々から噂されていた話だが、アンダーエイジのアジアの大会で、中東勢は平気で年齢を詐称して大人の選手が出てくる。U-16の大会なのに、ホテルで食事をしていると中東の選手が子供が何人も写ってる家族写真を見せに来たりする。あまりに不条理なので、日本側はレントゲン写真で成人かどうかを検査する案を出したが、健常者へのレントゲン撮影は欧米が絶対に納得しないと却下されたため、MRIで骨年齢を測定する検査を導入することにしたという。試合はこんなところからすでに始まっている。
●もうひとつ、前評判を覆して2022年にカタールでワールドカップが開催されることに決まった際の投票の話も見逃せない。この大会にはカタールのほかにアメリカや日本なども立候補していた。どう考えても夏の大会で灼熱のカタールは不利のはず。でも決選投票でカタールが勝った。どうするのよ。
カタールの勝ちが決まったとき、アフリカの理事の奥様方から桁外れの大歓声が沸き起こったのも異様だった。
「何を約束されていたんでしょうね?」
思わず、そう私にこぼした日本の招致関係者がいた。
なにが起きたかを雄弁に物語っているが、だからといって、22年のカタール開催をだれも覆すことはできない。政治そのものという気がする。
クス・クァルテット ベートーヴェン・サイクルIV ~ サントリーホール チェンバーミュージックガーデン2019
●11日はサントリーホールのブルーローズでクス・クァルテットによるベートーヴェン・サイクルIV。先日は「ラズモフスキー3曲特盛セット」だったが、この日は弦楽四重奏曲第15番イ短調と第13番変ロ長調「大フーガ付」の2曲。後半が「大フーガ付」なので、内容的には今回も重量級。クス・クァルテットは第13番を演奏する際、必ず本来のベートーヴェンの意図に添って「大フーガ付」で演奏するそうで、後から作られた軽いフィナーレはアンコールも含めて演奏しないんだとか。
●毎年恒例のベートーヴェン・サイクル、これまでおおむねスーパー・アグレッシブなエクストリーム・ベートーヴェンを聴くことが多かったように思うのだが、クス・クァルテットはそういうタイプとは一線を画している。エクストリームではない、でも自分たちの刻印をしっかりときざみながら進むベートーヴェン。先日に比べれば、全体に調和がとれていたか。バランスがよかったのは後半、でも自分がより楽しんだのは前半。第15番の「病癒えたる者の神への感謝の歌」は圧巻。真に崇高。もちろん、後半「大フーガ」の緊迫感もすばらしかった。
●クス・クァルテットはサイクルに対して作曲年代順に演奏することにこだわっていて、おかげで一回一回のプログラム構成で見ると、かなり偏りができる。初日は作品18のまとめて6曲やったそうで、客席側は集中力を保つのが大変そう。かと思えば、ラズモフスキー3曲まとめてだったり、この日のように第15番+第13番「大フーガ」付みたいにすさまじく濃密な日もできる。そうなると最後の一日はどうなるかと思うじゃないすか。第16番で終わるのかなと。でも彼らは第16番の後にマントヴァーニの新作、弦楽四重奏曲第6番「ベートヴェニアーナ」世界初演を行なう。その日は行けないんだけど、サイクルの最後に現代曲を置くというアイディアはおもしろい。
●で、作曲年代順ならではのおもしろさもあって、この日の第15番→第13番の流れは作風の変遷をたどれるという意味では吉(番号は作曲順と異なる)。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲って、後期になると楽章数が増えていく(最後は4楽章に戻る)。第15番は全5楽章、第13番は全6楽章。どうして晩年になると楽章数が増えていくんだろうか。自分なりの解釈としては、多楽章化=セレナード化。4楽章の四重奏曲が交響曲のサブセット版だったのに対して、多楽章の四重奏曲はセレナードにつながっている。第15番はまだ交響曲風(というか「第九」風)だけど、第13番はセレナード的。そういう意味では、終楽章に「大フーガ」ではなく、後から書いた軽いフィナーレが来るほうが、作品コンセプトとして一貫するような気もする。作曲当時、「大フーガ」を差し替えるように求めた出版社は、「大フーガ」を嫌ったというよりは一貫性を重んじる編集センスの持ち主だったのかも、と想像。
ニッポンvsエルサルバドル@キリンチャレンジカップ
●先日のトリニダード・トバゴに続く親善試合の第2弾はエルサルバドル戦。会場はひとめぼれスタジアム宮城。何度も書いているように、ヨーロッパの代表チームがインターナショナル・マッチ・ウィークにUEFAネーションズリーグなる国際大会を始めてしまったので、ニッポンは親善試合に欧州以外の相手と戦うしかない。欧州以外なおかつアジア以外と戦うとなったら、もう相手は北中南米かアフリカばかりになる。選択肢が一気に狭まってしまった。
●で、エルサルバドルだ。まったく未知のチームだったが、意外にもボールをつなぐポゼッション志向のチームで、フィジカルよりも足元の技術を重視した選手選考をしている模様。つまり、ニッポンと似たような戦い方を目指している。両者がぴたりと噛み合った結果、個の力で上回るニッポンが快適に試合を進めることに。前半19分、スルーパスに飛び出した永井謙佑が、ディフェンスを交わしてゴール。さらに前半41分、原口の低いクロスにダイレクトで合わせて永井が2ゴール。得点はこれだけだったが、危なげなく勝利。ボール支配率は相手のほうが高かったものの、ほとんどシュートを打たせず。森保監督は今回も昌子、冨安、畠中で3バックを試したが、相手のプレイ強度がこの程度だと果たしてテストになったといえるのかどうか。後半途中からついに久保建英が出場して代表デビュー。以前よりも体つきが逞しくなっている。大変なテクニックで、エルサルバドルが相手ならアジアのメッシ。コパ・アメリカが試金石となる。後半途中から4バックに変更。
●メンバーは先発だけ書いておこう。GK:シュミット・ダニエル、DF:昌子、冨安、畠中-MF:橋本拳人、小林祐希、原口、南野、伊東、堂安-FW:永井謙佑。4年ぶりに呼ばれた永井謙佑は30歳で初ゴール。鈴木武蔵の負傷離脱で巡ってきたチャンスに結果を残した。といっても、このポジションで永井の序列は何番目なんだろうか。
ピエタリ・インキネン&日本フィル記者会見
●6日は杉並公会堂グランサロンで日本フィル記者会見へ。首席指揮者ピエタリ・インキネン、平井俊邦理事長、益満行裕企画制作部部長が登壇。主な内容は4月に行われたヨーロッパ・ツアーの報告と、今年10月からスタートするベートーヴェン生誕250年ツィクルスについて。
●まず13年ぶりとなったヨーロッパ・ツアーについて平井理事長から、財政的に高いハードルだったが相当な苦労の末に実現したこと、世代交代が進む日フィルにとって大きな財産になったことが述べられた。特にフィンランド公演についてはインキネン自らのプロデュースがあって実現し、本場で日フィルのシベリウスを披露できたことは大きな喜びだったという。
●インキネンにとっては「私と日フィルの間のもっとも密度の濃い一か月間」。以前にもインキネンは自分はオーケストラのメンバーと交わりたいタイプだと話していたが、その点でもツアーは大きな収穫となった模様。「ツアーを通じて私たちは大きく成長した。とりわけフィンランド公演は自分と日フィルにとって特別な節目となった。ウィーンのムジークフェラインでの公演は貴重な体験だった。このホールでは最初の一音目からすばらしい響きがして、忘れることができない。おもしろいのは帰国後のサントリーホールの凱旋公演で、ホールの響きがいつもとは違って感じられたこと。サントリーホールもよいホールだが、なにかが変わっていた。もちろんホールの響きそのものは変わっていないのだから、私たちの感じ方のほうが変わったのだ」。
●ベートーヴェン生誕250年は来年なのだが、秋始まりのシーズン単位で考えると、スタートはこの秋ということか。ベートーヴェンの交響曲を集中的に一気に演奏するのではなく、協奏曲やドヴォルザーク作品などと組み合わせつつ、10月、来年4月、6月、11月、再来年3月と足かけ3年にかけてのシリーズになる。インキネン「どのオーケストラにも固有のDNAがある。日フィルは明るく繊細な響きを持っている。ツアーで深めた信頼関係がベートーヴェンでも力となってくれるだろう」。
ニッポンvsトリニダード・トバゴ@キリンチャレンジカップ
●ようやく録画でチェックしたニッポンvsトリニダード・トバゴ戦。先日も書いたように、この試合はコパ・アメリカとはかなり異なるメンバーが招集されている。ベストメンバーでもなければ、大会に向けてのテストでもない、大人の事情ジャパン。試合を見るモチベーションがまったくあがらない代表戦。で、森保監督もこのままでは試合の意味がなさすぎると思ったのか、なんと、3バックにチャレンジしていた。昌子、冨安、マリノスで大ブレイク中の畠中槙之輔の3バック。フォーメーションとしては3-6-1あるいは3-4-3。ウィングバックは左が長友、右が酒井宏樹で、どちらもサイドバックの選手を起用していた。守備的に戦う相手にこの布陣だと、いかにも攻撃の枚数が足りない感じもあるが、チャンスの山を築いて0対0のドロー。29本のシュートを打ったのだが、相手キーパーの好セーブもあり無得点。
●この試合、なんか違うって気がしてしょうがないけど、メンバーを書いておくか。GK:シュミット・ダニエル:DF:昌子、冨安、畠中-MF:酒井宏樹(→室屋)、長友(→原口)-守田英正(→小林祐希)、柴崎-堂安(→南野)、中島-FW:大迫。これだけ一方的に攻めると、3バックの安定性に関してはテストにならなかったかも。中島はキレキレ。畠中はついこの間までJ2のヴェルディでプレーしていたのに、マリノスに移籍したと思ったら、代表選手になって、あっという間のステップアップ。23歳だし、まだまだ上を目指せる。サッカー選手は試合に出続けていればどんなチャンスが巡ってくるかわからない。
クス・クァルテット ベートーヴェン・サイクルII ~ サントリーホール チェンバーミュージックガーデン2019
●5日はサントリーホールのブルーローズでクス・クァルテットによるベートーヴェン・サイクルII。チェンバーミュージックガーデン恒例のベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲シリーズで、今年はクス・クァルテットが登場。クス・クァルテットは第一ヴァイオリンのヤーナ・クスの姓にちなんでのネーミング。91年から活動しているそうなのでキャリアは長い。プロフィール欄によればヴィオラとチェロは途中でメンバー交代があった模様。今回のシリーズではパガニーニが所有していたという4台のストラディヴァリウス「パガニーニ・クァルテット」のセットが日本音楽財団から短期貸与されている。
●ベートーヴェンの四重奏曲を各回にどう振り分けるかはクァルテットによってまちまち。クス・クァルテットは作曲順に忠実に並べるというポリシーを貫いていて、初日はop.18の全6曲を一回で演奏したのだとか。なので、第2回の今回は「ラズモフスキー」の第1番から第3番をまとめて。初日ほどではないにしても、これも相当なボリューム感。第1番と第2番の前半が終わった時点ですでに20時25分。これまでこのシリーズでしばしば耳にしたキレッキレのエクストリーム・ベートーヴェンとは趣きが違っていて、鮮烈度よりもディテールの表現を大切にした演奏。安定感を欠いたところもあったものの、全体としては意欲的で、「ラズモフスキー」の3曲が持つ雄大さや革新性がよく伝わってくる。第1ヴァイオリンがもうひとつ楽器が鳴っていない気がするのだが、これはこの日のコンディションなのかどうか。4人のなかではチェロがもっとも雄弁で、異彩を放っていた。
●作曲順に聴くということは、どの日であれ同種の曲をまとめて聴くことになりがちで、「ラズモフスキー」だと3曲だけでもマラソン感あり。もちろん、アンコールはなし。充足。
シャーロック・ホームズとジャン・パウルとマイアベーア
●最近ハマっていたシャーロック・ホームズ・シリーズの話をもうひとつ。長篇「四つの署名 新訳版 シャーロック・ホームズ」(コナン・ドイル著/駒月雅子訳/角川文庫)を読んでいたら、ホームズがジャン・パウルについて述べる場面が出てきた。ジャン・パウルといえば「巨人」。マーラーの交響曲第1番「巨人」の由来となったのが、この大長篇小説だ。ホームズはこう語る。
ジャン・パウルの作品には奇抜だが含蓄に富む表現があってね。人間の真の偉大さを示す最大の証拠は、おのれの卑小さに対する認識に宿っている、と言っているんだ。そう、要するに、比較する力や評価する力をそなえていることこそが高潔さの証明になるんだ。彼の言葉には思考の糧になるものが多いよ。
●マーラーのみならずホームズまでも(つまり、おそらくはコナン・ドイルまでも)、ジャン・パウルに傾倒してたとは。マーラーが交響曲第1番に「巨人」の標題を添えて(後に撤回)、5楽章構成のハンブルク稿を演奏したのは1893年のこと。コナン・ドイルが「四つの署名」を発表したのは1890年。ほぼ同時期だ。マーラーとシャーロック・ホームズは同じ時代を歩んでいる。
●シャーロック・ホームズ・シリーズには、オペラも出てくる。ホームズはワトスンとともにマイアベーアの「ユグノー教徒」を見に行っている。ホームズが出かけたオペラやコンサートについて、ONTOMOの拙連載「耳たぶで冷やせ」で「シャーロック・ホームズの音楽帳 その2〈オペラ&コンサート篇〉」として書いた。ご笑覧ください。
ラン・ランが結婚。お相手はピアニストのジーナ・アリスさん
●さすがスーパースター、ラン・ランだけあって、すでに一般ニュース・サイトでも報じられているが、6月2日にジーナ・アリスさんとの結婚が発表された。ジーナさんはハンブルク音楽演劇大学に学んだピアニストで、ラン・ランとは数年前にベルリンで出会ったそう。ドイツ語、英語、フランス語、韓国語、中国語に堪能なのだとか。
●同日、パリのシャングリ・ラ・ ホテルで豪華なセレモニーが開かれ、家族や友人をはじめ、プラシド・ドミンゴやヨナス・カウフマンら音楽家や政財界のセレブも大勢が臨席。ラン・ランとジーナさんはいっしょにピアノでバッハを弾いたという。写真はそのセレモニーの様子。グラスにはモエ・エ・シャンドンのシャンパン(と、プレス向け資料に明記されていて、後方にはシャンパンピラミッドがそびえたっている)。末永く、お幸せに。
バッハ・コレギウム・ジャパン第133回定期演奏会「マリアの讃歌」
●2日は東京オペラシティでバッハ・コレギウム・ジャパン第133回定期演奏会「マリアの讃歌」。指揮は鈴木優人で、オルガンが鈴木雅明という形での父子共演。プログラムはマニフィカトで始まって、マニフィカトで終わった。オルガン独奏でブクステフーデの第一旋法によるマニフィカトとバッハの「前奏曲、トリオとフーガ」ハ長調BWV545/1, 529/2, 545/2で始まって、バッハのカンタータ第147番「心と口と行いと生活が」BWV147、休憩をはさんでカンタータ第37番「信じて洗礼を受ける者」BWV37、マニフィカト ニ長調BWV243。ソプラノに松井亜希、クリステン・ウィットマー、カウンターテナーにテリー・ウェイ、テノールに櫻田亮、バスに加耒徹。ジャン=フランソワ・マドゥフのナチュラル・トランペットが大活躍。
●「マリアの讃歌」というテーマのおかげか、全体に喜びと祝祭感にあふれる公演に。冒頭の気迫に満ちたブクステフーデから、おしまいの壮麗きわまりないマニフィカトに至るまで一本の大きなストーリーが感じられるプログラム。ソロの聴きどころも満載で、独唱はもちろんのこと、オーボエ・ダモーレ、ソロ・ヴァイオリン、トランペットなど華やか。BCJ定期では大なり小なりうっかり集会に紛れ込んでしまった異教徒の自分を意識せずにはいられないのだが、その点でバッハのマニフィカトはもっともオープンで、宗教を超えた普遍的で抽象化された喜びの感情を伝えてくれる音楽だと感じる。
●優人さんの指揮のもと、雅明氏がオルガンを弾いているという絵があまりに感動的。子が親の後を継いで音楽家になり、アンサンブルを率いる。これは決して容易ではないはず。父親としてこれほど深い喜びに浸れることがほかにあるだろうか。