●最近ハマっていたシャーロック・ホームズ・シリーズの話をもうひとつ。長篇「四つの署名 新訳版 シャーロック・ホームズ」(コナン・ドイル著/駒月雅子訳/角川文庫)を読んでいたら、ホームズがジャン・パウルについて述べる場面が出てきた。ジャン・パウルといえば「巨人」。マーラーの交響曲第1番「巨人」の由来となったのが、この大長篇小説だ。ホームズはこう語る。
ジャン・パウルの作品には奇抜だが含蓄に富む表現があってね。人間の真の偉大さを示す最大の証拠は、おのれの卑小さに対する認識に宿っている、と言っているんだ。そう、要するに、比較する力や評価する力をそなえていることこそが高潔さの証明になるんだ。彼の言葉には思考の糧になるものが多いよ。
●マーラーのみならずホームズまでも(つまり、おそらくはコナン・ドイルまでも)、ジャン・パウルに傾倒してたとは。マーラーが交響曲第1番に「巨人」の標題を添えて(後に撤回)、5楽章構成のハンブルク稿を演奏したのは1893年のこと。コナン・ドイルが「四つの署名」を発表したのは1890年。ほぼ同時期だ。マーラーとシャーロック・ホームズは同じ時代を歩んでいる。
●シャーロック・ホームズ・シリーズには、オペラも出てくる。ホームズはワトスンとともにマイアベーアの「ユグノー教徒」を見に行っている。ホームズが出かけたオペラやコンサートについて、ONTOMOの拙連載「耳たぶで冷やせ」で「シャーロック・ホームズの音楽帳 その2〈オペラ&コンサート篇〉」として書いた。ご笑覧ください。