●11日はサントリーホールのブルーローズでクス・クァルテットによるベートーヴェン・サイクルIV。先日は「ラズモフスキー3曲特盛セット」だったが、この日は弦楽四重奏曲第15番イ短調と第13番変ロ長調「大フーガ付」の2曲。後半が「大フーガ付」なので、内容的には今回も重量級。クス・クァルテットは第13番を演奏する際、必ず本来のベートーヴェンの意図に添って「大フーガ付」で演奏するそうで、後から作られた軽いフィナーレはアンコールも含めて演奏しないんだとか。
●毎年恒例のベートーヴェン・サイクル、これまでおおむねスーパー・アグレッシブなエクストリーム・ベートーヴェンを聴くことが多かったように思うのだが、クス・クァルテットはそういうタイプとは一線を画している。エクストリームではない、でも自分たちの刻印をしっかりときざみながら進むベートーヴェン。先日に比べれば、全体に調和がとれていたか。バランスがよかったのは後半、でも自分がより楽しんだのは前半。第15番の「病癒えたる者の神への感謝の歌」は圧巻。真に崇高。もちろん、後半「大フーガ」の緊迫感もすばらしかった。
●クス・クァルテットはサイクルに対して作曲年代順に演奏することにこだわっていて、おかげで一回一回のプログラム構成で見ると、かなり偏りができる。初日は作品18のまとめて6曲やったそうで、客席側は集中力を保つのが大変そう。かと思えば、ラズモフスキー3曲まとめてだったり、この日のように第15番+第13番「大フーガ」付みたいにすさまじく濃密な日もできる。そうなると最後の一日はどうなるかと思うじゃないすか。第16番で終わるのかなと。でも彼らは第16番の後にマントヴァーニの新作、弦楽四重奏曲第6番「ベートヴェニアーナ」世界初演を行なう。その日は行けないんだけど、サイクルの最後に現代曲を置くというアイディアはおもしろい。
●で、作曲年代順ならではのおもしろさもあって、この日の第15番→第13番の流れは作風の変遷をたどれるという意味では吉(番号は作曲順と異なる)。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲って、後期になると楽章数が増えていく(最後は4楽章に戻る)。第15番は全5楽章、第13番は全6楽章。どうして晩年になると楽章数が増えていくんだろうか。自分なりの解釈としては、多楽章化=セレナード化。4楽章の四重奏曲が交響曲のサブセット版だったのに対して、多楽章の四重奏曲はセレナードにつながっている。第15番はまだ交響曲風(というか「第九」風)だけど、第13番はセレナード的。そういう意味では、終楽章に「大フーガ」ではなく、後から書いた軽いフィナーレが来るほうが、作品コンセプトとして一貫するような気もする。作曲当時、「大フーガ」を差し替えるように求めた出版社は、「大フーガ」を嫌ったというよりは一貫性を重んじる編集センスの持ち主だったのかも、と想像。
June 12, 2019