●先日、「平成日本サッカー 秘史 熱狂と歓喜はこうして生まれた」 (小倉純二著/講談社+α新書) を読んでいたら、バイロム社の話題が出てきて、久々にワールドカップ2002日韓大会のことを思い出した。そう、あの悪名高いバイロム社だ……といっても、もう覚えている人は少ないか。この本でも著者の小倉純二氏がバイロム社の酷さに「はらわたが煮えくり返った」と記している。このイギリスの会社は海外分のチケット販売を一手に引き受けていたのだが、とにかく仕事が杜撰。日本側じゃ全試合で熾烈なチケット獲得競争がくりひろげられているのに、バイロム社は売れ残ったチケットを放置してしまい、売り切れたはずの試合で大量の空席が出た。きわめつけは決勝トーナメントのニッポン対トルコ戦で、まさかのニッポン戦で空席がごっそり出る始末。小倉氏によれば、あれはバイロム社が良席をなぜか「見切れ席」として売らなかったから。実際にはバックスタンド正面のエリアなのに。しかもバイロム社は不手際を指摘されると、日本側の対応が悪かったせいだと事実無根の釈明をして、いっそう事態を紛糾させた。ほかにもチケットが届かないなど、バイロム社はありとあらゆるトラブルを起こした。
●でも、日本のサッカー・ファンはあのとき学んだ。「これが世界だ」。物事は決して日本式には進まない。ルールが決められていても、そんなものが守られるかどうか、実際に始まってみないとだれもわからない。FIFAに人脈があるだけの小さな会社が大仕事を受注したが、やってみたら仕事は穴だらけ、ありえないミスが次々と起きる。担当者の胸先三寸でチケットはどこに行くかわからない。だったら、われわれファンも世界基準でチケット争いに加わればいいのでは? ルールより現実を優先しよう。あのときそういう機運が芽生えた。そこで、バイロム社の不備を突いて、本来なら日本人には買えないはずの海外向けチケットを購入する方法がないかとさまざまな作戦が立てられた。そして発見されたのが、海外向けのチケット販売サイトでウェブブラウザに対してある種の方策をとると(cookieの操作だったような記憶)日本からは買えないはずのチケットが買えてしまうという荒技。もちろん、ネット上で買えても、決済後にキャンセルされたり、チケット送付が拒否される可能性もあったが、一部の日本のファンはこの技でまんまとバイロム社を出し抜くことに成功した。
●いや、違うな。バイロム社にとっては売れればなんだっていいんだから、わざと穴をふさがなかったのかも。彼らと日本のファンの間で無言の取引が成立しただけともいえる。ワールドカップからはいろいろなことを学べる。
June 20, 2019