●24日はオーチャードホールで大野和士指揮バルセロナ交響楽団。「トゥーランドット」でピットに入っていたバルセロナ交響楽団がベートーヴェン「第九」を演奏する。さらに三味線の吉田兄弟をソリストに迎えて、バルセロナの若い作曲家ファビア・サントコフスキーの2つの三味線とオーケストラのための協奏曲「カザルス讃&二重の影の歌」を日本初演。カタルーニャの大音楽家カザルスと彼が広めたカタルーニャ民謡「鳥の歌」を軸とした、日本とカタルーニャの結びつきから生まれたのがこの日のプログラム。開演前にマエストロのトークがあって、新作への「鳥の歌」の引用のことや、カザルス指揮バルセロナ交響楽団による「第九」の逸話など紹介あり。なぜかプログラムノートにファビア・サントコフスキーのプロフィールが見当たらないのだが、2015年度武満徹作曲賞(サーリアホが審査員の年)の第2位だった人。タイトルにある「二重の影の歌」は谷崎潤一郎の著作に由来するそう(どれ?)。作品は真摯なもので、オーケストラが特殊奏法を駆使しながら、風の音など自然の光景を連想させつつ、三味線が繊細に絡み合う。長さがある割には静的な部分が続くので、聴きやすいとはいえないかな。三味線のカデンツァ部分でがぜん盛り上がる。三味線とオーケストラという異質な組合せの割には、衝突感がなく、なにか手際がよすぎる気も。ソリスト・アンコールは津軽三味線スタイルの「鳥の歌」でこれは鮮やか。三味線はPAあり。音量かなり大。
●バルセロナ交響楽団にとって「第九」はカザルスゆかりの曲なので、意外にも毎シーズン一回演奏しているのだとか。来日オーケストラ、しかも非ドイツ語圏のオーケストラによる「第九」を聴く機会はめったにない。冒頭を少し聴いただけでも、日本のオーケストラの聴きなじんだ「第九」とは色が違う。日頃、在京オーケストラもそれぞれ特徴的だと思っているわけだけど、こうしてバルセロナのオーケストラを聴くと、文化の違いを感じる。重心は軽めで、音色は明るい。「第九」に期待する重厚さは乏しく、縦にがっしりと積み上げるのではなく、横にさらさらと流れていくような「第九」。正直なところ、この日の演奏は安定感をかなり欠いて本領発揮とはいかなかったと思うが、柔らかくしなやかな第3楽章は新鮮。第4楽章で声楽陣が入ってからは格段に引きしまった。独唱陣は妻屋秀和のバス、デヴィッド・ポメロイのテノール、加納悦子のメゾ・ソプラノ、ジェニファー・ウィルソンのソプラノ。東京オペラシンガーズが入魂の合唱。合唱のクォリティの高さのおかげでクライマックスは壮麗。客席の反応は思ったよりもおとなしめ。
July 25, 2019