●5日はすみだトリフォニーホールでジャン・チャクムルのピアノ・リサイタル。チャクムルはトルコ出身。昨年の浜松国際ピアノコンクール優勝者ということで話題の人なのだが、ワタシは今回が初めて。大ホールでの平日のリサイタルなので苦戦するかと思いきや、客席の入りは良好。プログラムがいい。前半にショパンの「華麗なる大円舞曲」、メンデルスゾーンの幻想曲「スコットランド・ソナタ」、バッハのイギリス組曲第6番ニ短調、後半にシューベルトのピアノ・ソナタ第7番変ホ長調、ショパンの24の前奏曲より「雨だれ」等の6曲、バルトークの「野外にて」。
●多彩な曲目だが、全体にうっすらと漂うテーマは、自然に対峙する人間といったところか。メンデルスゾーンの「スコットランド・ソナタ」に聴く嵐や波を前にした畏怖の念、ショパンがマジョルカ島で感じた雨の日の孤独、バルトークの鋭敏な感性で切り取った夜の音楽など。チャクムルはメカニックで圧倒するタイプではなさそう。一曲目から粗っぽいショパンだったが、出色だったのはシューベルト。詩情豊かで、若さに似合わず玄妙。バルトークは思い切りがよく、聴きごたえあり。アンコールにシューベルト/リスト編の「水車屋と小川」。
●プログラム全体を見ると、なんとなく最初の「華麗なる大円舞曲」が浮いている気がする。考えすぎなんだろうけど、もし最初の一曲がなければ、シューベルトのソナタを中心として、その両側にバッハ&バッハへの敬愛から生まれたショパンの前奏曲、さらに外側にメンデルスゾーン&バルトークの対照的な自然描写が並んでシンメトリーをなしているとも見える。で、最後のバルトークの「野外にて」もやっぱり5曲でシンメトリックな構成になっている、という趣向があるのかなあ……と思ったんだけど、そうでもないのかな。
●なぜかプログラムノートに曲目解説がなかった(→後日知ったところによると、挟み込みで別紙にあったそう。気づかずに失礼しました)。客席の雰囲気がいつもと違って、少し落ち着かない様子。
August 6, 2019