●14日は川口総合文化センター・リリアへ。レオナルド・ダ・ヴィンチ没後500年にちなんで開催される「ダ・ヴィンチ音楽祭 in 川口」の初日、オペラ「オルフェオ物語」。中心となるのは濱田芳通と古楽アンサンブルのアントネッロ。といっても、レオナルドがオペラを書いたわけではない。オペラの成立よりももっと前、レオナルドがアンジェロ・ポリツィアーノの台本を用いてプロデュースしたと考えられるのが、この「オルフェオ物語」。譜面は残っていないので、再現するのは不可能だが、同時代の音楽を用いて、これに替え歌としてテキストをあてはめながらオペラとして再構成する。蘇演をしたというよりは、ふんだんに創意が込められた再創造と呼ぶのがふさわしい。演出は中村敬一。コンサートホールの舞台上にアンサンブルが載り、主に中央部で歌手が演技するスタイル。2幕構成で休憩を含めて3時間ほど。
●で、「オルフェオ物語」だっていうから、まあ、知ってる話のはずじゃないすか。モンテヴェルディの「オルフェオ」やグルックの「オルフェオとエウリディーチェ」を挙げずとも、それ以前に神話として子供向けの読み物等で読んでいる。オルフェオは毒蛇に噛まれて死んだ奥さんを取り戻そうと黄泉の国に下るんだけど、「決して後ろを振り返らない」という約束を破って、つい後ろを見てしまって、奥さんもう戻らない。普通はここで物語は終わる。でも、この「オルフェオ物語」は、その後のオルフェオの運命までちゃんと描かれているんすよ! むしろ、振り返った後が本題といってもいい。悲しみのあまりオルフェオは女への愛を否定する。で、男に走る。ここで進行役のレオナルド・ダ・ヴィンチが出てきて、オルフェオとのラブシーンがくりひろげられる。巫女たちは、オルフェオ許すまじとなって、オルフェオを殺して、首を切る。オルフェオの首を前にして、狂乱の宴を催し、バッカスを称える巫女たち。ぶっ飛んでる。遊び心もあって、大笑い。
●こんな痛快な舞台が成立するのも、音楽面が充実しているからこそ。キャストは坂下忠弘(オルフェオ)、阿部雅子(エウリディーチェ/メルクーリオ)、黒田大介(モプソ/ダ・ヴィンチ)、中山美紀(プロゼルピナ/ドリアス/バッカスの巫女)、彌勒忠史(プルート)、上杉清仁(アリステオ/ミーノス)、中嶋克彦(ティルシ)他。管弦楽は濱田芳通指揮アントネッロ。擦弦楽器はリラ・ダ・ブラッチョ(初めて聴いた)とヴィオラ・ダ・ガンバ。管楽器はラウシュプフェイフェ、クルムホルン、ドゥセーヌなど縦笛無双。
●たまたまなんだけど、この日、映画館で新海誠「天気の子」を見てから、川口リリアに行ったんすよ。愛する人を取り戻すために一方は天に昇り、もう一方は冥府に下ったという500年の時を超える共通性に気づいて客席で震えた。
August 17, 2019