●28日はサントリーホールのサマーフェスティバル2019で、ジョージ・ベンジャミンのオペラ「リトゥン・オン・スキン」。セミ・ステージ形式。今回が日本初演で二日間にわたる公演の初日。サマーフェスティバルの「ザ・プロデューサー・シリーズ 大野和士がひらく」の一環として上演された次第。この「リトゥン・オン・スキン」、2012年にエクサンプロヴァンスで初演されて以来、世界各地でくりかえし上演されており、演奏記録を見たところ、すでに30回以上再演されている。すごい人気。
●演奏は大野和士指揮東京都交響楽団。舞台総合美術は針生康。ステージ上にオーケストラが乗り、その後方に白いデッキが設けられ、さらにスクリーンが設置される。スクリーン上では、顔をマスクした役者がストーリーに応じて、半ば具体的、半ば抽象的な演技をする。ほかにダンサーもふたり。ダンサーは開演前からステージに登場して演技を始める。歌手はプロテクター(領主)役にアンドルー・シュレーダー(バリトン)、妻アニエス役にスザンヌ・エルマーク(ソプラノ)、少年役に藤木大地(カウンターテナー)、他。台本はマーティン・クリンプで、13世紀の作者不詳のストーリーが題材になっている。全3部で約100分、休憩なし。
●先に作曲者ジョージ・ベンジャミンのインタビューを見たら、結末までネタバレしてしまったのだが、ストーリーとしては「ペレアスとメリザンド」+「ハンニバル」といったところか。高慢な領主が写本彩飾師の少年を雇い、絵を描かせる。領主の妻アニエスは少年を誘惑し、ふたりは愛し合う。ふたりの関係に疑念を抱いた領主は、少年を問い詰める。少年はうそをつくが、やがてふたりの関係は明らかにされ、領主は少年を殺す。そして、少年の心臓を妻アニエスに食べさせる。妻はいう。「こんなにおいしいもの、食べたことがない」。このストーリーの外枠として、天使が現在から中世に連れて行き、最後はまた現代(2021って書いてあった?)に帰ってくるという趣向がある。こう書くとおもしろそうな気がするんだけど、この脚本はどうかな。要素が多いので、一回見ただけではわかりづらいかも。タイトルは羊皮紙に書かれた物語のこと。
●ステージで歌手が歌い、同時に物語は映像でも表現され、覆面役者が演技をしている。おまけにダンサーもいる。情報量が多くて、どこを見ていいのかわからない感じなのだが、気がつくと映像に見入ってしまう。もし古典オペラで同じことをしたらどうなるかを想像すると、なんだか妙な気分。作品に入り込むのに苦労した。
●曲は第3部に入ってからの緊迫感あふれる音楽が聴きごたえあり。随所で瞬間瞬間の美しさ、抒情性、劇的緊張感はある。ただ、音楽がドラマを動かすというよりは、ドラマを音楽がなぞっているという感も残ったかな。
August 29, 2019