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September 20, 2019

「蜜蜂と遠雷」(恩田陸著/幻冬舎)

●今さらではあるんだけど、もうすぐ映画も公開されるということで、ようやく読んだ、「蜜蜂と遠雷」(恩田陸著/幻冬舎)。分厚い本だけど、読みだすと先が気になってあっという間に読める。小説の舞台となるのは芳ヶ江国際ピアノコンクールで、モデルとなったのは浜松国際ピアノコンクール。著者の綿密な取材が生きていて、音楽コンクールとはどんなものかを一般読者にきちんと伝えているというだけでも功績大。ときに「あ、この言葉は小川典子審査委員長の言葉なんだろうな」っていうのが透けて見えるくらい。
●基本的に音楽小説である以前に青春小説なので、文体は若者向け。登場人物もみんな若者か、若者視点で見た大人という描かれ方。だから、小説としては自分に向けられたものとは少し違うかなとは思うんだけど、各々のコンテスタントのキャラクター設定とか、本当によくできている。あと、音楽を言葉で表現することには常に困難がつきまとうはずなんだけど、この小説では主要登場人物が一次予選、二次予選、三次予選、ファイナルと進むにつれて、くりかえし架空の演奏に対するそれぞれ異なる言語表現が求められる。この難しさに小説家として正面から立ち向かっていることに感嘆するほかない。
●なにかの才能を競うタイプの物語では、「ある天才が出てきた」と思ったら「もっとすごい天才がでてきた」、さらに「まだまだ上を行く天才がいた」みたいに天才の価値がインフレ化していく。天才インフレーション理論と呼びたい。
●映画も見たい。
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●お知らせ その1。FM PORTの番組「クラシック・ホワイエ」、明日9月21日(土) 22:00-23:00の回で、オルガンの石丸由佳さんをお招きして、ニューアルバム「オルガン・オデッセイ」についてお話をうかがっている。ラジコプレミアムを使えば、全国どこからでも放送後オンデマンドで聴取可。
●お知らせ その2。ONTOMOの10月特集「秘密」に「大ヴァイオリニストたちの秘密~パガニーニ、クライスラー、エネスコ」を寄稿。ささやかなエピソード集。