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October 3, 2019

「なめらかな世界と、その敵」(伴名練 著/早川書房)

●最近読んだ小説のなかで、ずば抜けて強烈な印象を残したのが「なめらかな世界と、その敵」(伴名練 著/早川書房)。表紙絵がこんな感じなので書店では手に取りづらいが、全6篇からなる恐るべき短篇集。完全にSFというジャンル小説にとどまりながら、これほど新しく、今を描いた小説はないんじゃないか。
●秀逸なのは世界設定。表題作「なめらかな世界と、その敵」では、まず女子高生のなんでもないスクールライフが描かれるのだが、少し読み進めると、この世界ではだれでも自由意志によって並行宇宙を渡り歩くことができるとわかってくる。つまり、都合の良い現実を選択できる万能の人生を送っている。ところが、そんな世界で並行宇宙を移動する能力を失ってしまった人、たったひとつの現実を生きなければならない登場人物が出てくる。彼らを指して呼ぶには「乗覚障害」。この言葉にくらっと来る。ひとつの現実を生きる人間を障害とみなす世界観。そして、その舞台設定が正しく青春小説に結実していることに驚嘆する。
●「シンギュラリティ・ソヴィエト」は歴史改変小説。アメリカがアポロ計画に取り組んでいる頃に、ソ連が先んじてAIを開発していたら、という舞台設定。「ひかりより速く、ゆるやかに」で描かれるのは、走行中の新幹線が突然「低速化」するという事故で、車両内では時間の流れが2600万分の1の速度に低下する。新幹線内の修学旅行生たちは結晶化した時間のなかに取り残され、旅行を欠席した主人公の現実と切り離されてしまう。これも青春小説。巧緻。