●5日はミューザ川崎でジョナサン・ノット指揮東京交響楽団のシェーンベルク「グレの歌」。ミューザ川崎シンフォニーホール開館15周年記念公演として二日間にわたる「グレの歌」の初日へ。本来ならめったにない貴重な機会だが、当欄でなんどか記しているように、今年ほかに2団体がこの作品を取り上げるというまさかの「グレグレグレの歌」祭りが出来。
●恐るべき巨大編成ではあるが、ホールの特徴もあってか、もっとも盛大に鳴らす場面でも響きが飽和せず、激しくはあっても決して狂暴ではない。今年聴いた「グレの歌」中ではもっとも清澄で豊麗なサウンド。そして歌手陣が強力。ヴァルデマールにトルステン・ケール、トーヴェにドロテア・レシュマン、山鳩にオッカ・フォン・デア・ダメラウ、農夫にアルベルト・ドーメン、道化師クラウスにノルベルト・エルンスト、語り手にサー・トーマス・アレン。合唱は東響コーラスで暗譜。前回も書いたように、第2部で大編成のオーケストラの咆哮に立ち向かうヴァルデマールの声が客席まで届かないのは、神に異議申立てをする人間の王の非力さと傲慢さを表現していると解することができる。ただ、ほかの2公演に比べれば、ケールの声は相当に健闘していて、むしろ「えっ、ここまで聞こえるの?」と思ったくらい。あと少しで神に勝てそうな超人の王。こんな強大な王が最後にはさまよえるゾンビになってしまうとは(なりません)。トーマス・アレンの声の力強さ、存在感の大きさも印象的。
●三者三様の「グレの歌」を聴けて、それぞれに違ったタイプのグレっぷりだったけど、作品そのものの印象はほぼ一貫していて、まだら模様の大作といった感じ。やっぱり後半のほうがおもしろい。というか、第1部の「山鳩の歌」から、おもしろくなってくる。最後にやってくる「見よ、太陽を」の問答無用の解決がすごい。ノットと東響は、来シーズンにシェーンベルク「ペレアスとメリザンド」、ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」(演奏会形式)へと、後期ロマン派の愛の音楽を遡る。
●終演後は盛大な喝采とカーテンコールの後、オーケストラの退出後もノットと歌手陣が2度にわたって呼び出された。まだ退出中だった合唱団への拍手の意もあったとは思うが、それにふさわしい記念碑的な演奏だったと思う。祭りは壮麗に閉じられた。
October 8, 2019