●28日はサントリーホールでセミヨン・ビシュコフ指揮チェコ・フィル。まさかビシュコフがチェコ・フィルの音楽監督になるとは。そして、プログラムはチェコ・フィルの十八番、スメタナの連作交響詩「わが祖国」。休憩なし(折り返しで奏者の配置換えなどあり)。ビシュコフにとってはともかく、オーケストラにとっては隅々まで知悉したレパートリーだろうから「老舗の味」を……と思っていたら、いい意味で予想を裏切って、すばらしく鮮烈かつ壮麗な「わが祖国」。今のチェコ・フィルがこんなにうまいオーケストラだったとは。絢爛として、解像度が高く、それでいて弦楽器の質感には温かみがあって、音色の美しさだけでも聴きほれてしまう。切れ味も十分。チェコ・フィルへの印象がずいぶん変わった。
●楽器配置は独特。コントラバスを後方に横に並べるスタイルで、それ以外は音域順に第一ヴァイオリンからチェロまで並ぶ。今やいちばん上手にチェロを置く配置は少数派。管楽器増強の大編成。2台のハープを下手と上手の両側に分けて置くのも効果的。両ハープ間の対話性がはっきりと打ち出される。序盤はある程度、抑制的で繊細な響きを作り出し、最後の「ターボル」「ブラニーク」ではエネルギーを開放して大きなクライマックスを作る。これは客席はかなりわくのではと思ったら、やはり大喝采に。アンコールはなく、カーテンコールをくりかえした後、早めに客電が入る。拍手は止まず、ビシュコフのソロ・カーテンコールに。なんども盛大なブラボーがわきおこり、ビシュコフは感極まったという様子。客席の一角でチェコの人々が小さな国旗を手に持って振っていたりして、少しフットボール的な香りがサントリーホールに漂っていたのが楽しかった。
●「わが祖国」は交響曲ではなく連作交響詩だし、4楽章ではなく計6曲だけど、最後に高らかに「賛歌」が奏でられるのは、どこか「第九」的だなと感じる。
October 30, 2019