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November 6, 2019

ヤニック・ネゼ=セガン指揮フィラデルフィア管弦楽団の「新世界」

●5日は東京芸術劇場でヤニック・ネゼ=セガン指揮フィラデルフィア管弦楽団。プログラムはラフマニノフのピアノ協奏曲第2番(ハオチェン・チャン)とドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」。超名曲が2曲並んだプログラムだが、アメリカのオーケストラにとっては広義の「お国もの」といえなくもない。フィラデルフィア管弦楽団はラフマニノフにとってゆかりのオーケストラでもある。
●ラフマニノフでソロを務めたのは中国出身のハオチェン・チャン。2009年のヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクール優勝者、つまり辻井伸行と1位を分け合ったもうひとりの覇者。つい先日、辻井伸行はケント・ナガノ指揮ハンブルク・フィルの来日公演でリストを弾いていたわけで、たまたま同じコンクールの優勝者の協奏曲が東京で続くことに。ハオチェン・チャンのラフマニノフは鐘の音を思わせる冒頭部分から非常に入念で重厚、スケールが大きい。ブリリアントな音色による凛々しいラフマニノフ。オーケストラは以前に聴いた記憶からするとかなり上り調子のようで、弦楽器の水準など相当に高い。豊麗で輝かしくサウンドを生かした甘美な演奏でピアノに寄り添う。演奏が終わると客席がどっと沸いて、ソリスト・アンコールに磨き上げられたショパンのノクターン第2番。指揮台に座って耳を傾けるネゼ=セガン。
●後半の「新世界より」も鮮明でゴージャス。隅々まで光が照らされて、きれいに掃除された雑味のないドヴォルザークとでもいうか。クォリティの高さに対して、客席の反応は前半に比べると意外なほど冷静。あまりに予定調和的ということなのか? カーテンコールの後、ネゼ=セガンがマイクを持ってあらわれ、アンコールを台風の被災者に捧げるとして、ラフマニノフの「ヴォカリーズ」。長めの沈黙の後、拍手。アメリカのオーケストラではままある光景だと思うが、カーテンコールの後、退出する指揮者の背中を追うようにコンサートマスターもささっと退いて、あっさり解散。本プロが終わるやいなや弦楽器奏者たちがアンコールの譜面を開くところもそうだけど、こういった効率性に文化の違いを感じる。最適化志向のあちらと、余韻好きのこちら。饅頭にたとえると(なんでだよ!)、上質のあんこがたっぷりと詰まっていてうれしいけど、こんなに皮を薄くしなくてもいいのにって気はする。
●ネゼ=セガンの靴の裏が赤いことに気づく。足の裏がよく見える。躍動する指揮。