●8日は東京オペラシティでアンドラーシュ・シフのピアノと指揮でカペラ・アンドレア・バルカ。ベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲演奏会シリーズの第2夜。曲はピアノ協奏曲第1番と第5番「皇帝」。第1夜が第2番から第4番の3曲だったので、第2夜だと2曲しか聴けないのが少し悔しい……と思っていたら、後述のように結果的に「2.5曲」聴けた! これでちょうど半分だ。笑。NHKの収録あり。
●カペラ・アンドレア・バルカはシフがメンバーそれぞれに出演を依頼して誕生した室内オーケストラ。コンサートマスターはモザイク・カルテットやコンツェントゥス・ムジクス・ウィーンで活躍のエーリヒ・ヘバース。メンバーはシフによれば「室内楽に長けたソリストたち」。若い人もいるけど、全体としてはベテランが多い雰囲気。トランペットはナチュラル、弦楽器は対向配置で、おもしろいのは2台のコントラバスを左右に1台ずつ分けて配置していること。まさかのコントラバス対向配置(っていうのか)。弦のヴィブラートは抑制的。ピアノは蓋を開いて、やや斜めに配置するスタイル。オーケストラ側からは蓋はじゃまだと思うんだけど、角度をつければなんとかなるということか。シフは可能なときは立ち上がって指揮。この指揮の動作がどれだけ効いているのかはなんともいえないんだけど、結果的にみんながひとつの方向を向いているという意味では抜群の求心力。オーケストラの機能性にもソロのヴィルトゥオジティにも依存せずに、今まさにそこから音楽が生まれてくる生々しさを体感させてくれる。ピアノは融通無碍、一種の語り物風というか。とくに「皇帝」のように完璧な名曲だと、すべてが整った結果、予定調和的な演奏に物足りなさを覚えることも多いんだけど、このコンビはまったく退屈させない。
●で、第1番と第5番「皇帝」が終わった後、なんと「第3部」があった。リサイタルならともかく、オーケストラでこれができるというのは常設団体にない強み。カーテンコールをくりかえした後、シフはピアノに座り、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番の第2楽章が始まった。えっと、これは第2楽章だけを演奏するのか、それとも……と思ったら、期待通り、第3楽章へ突入。これで一日で5曲中2.5曲を聴けたことに。大喝采の後、さらにシフは今度はソロで、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第24番「テレーゼ」を弾いてくれた。これも第1楽章だけではなく、第2楽章も(つまりぜんぶ)弾いてくれる。拍手が鳴りやまず、オーケストラ退出後、大勢のお客さんが残ってスタンディング・オベーション、シフのソロ・カーテンコールに。終演は21時半過ぎ。満喫。
November 11, 2019