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2019年12月アーカイブ

December 30, 2019

2019年 心に残る演奏会7選 +α

コーヒーを飲みながら
●今年もあとわずか。2019年をふりかえって「心に残る演奏会7選」を以下に日付順で。なぜか7選。一瞬のインパクトの強さではなく、後から思い出した時にじわじわと来るなにかがあった公演。作品の力も大。

シルヴァン・カンブルラン指揮読響 シェーンベルク「グレの歌」(サントリーホール)3/14


ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団 ヤン・ロバン&ベートーヴェン交響曲第7番(東京オペラシティ)5/18

佐渡裕プロデュース兵庫県立芸術文化センター バーンスタイン「オン・ザ・タウン」(東京文化会館)7/25

「B→C バッハからコンテンポラリーへ」成田達輝 (東京オペラシティ)10/8

クリスティアン・ティーレマン指揮ウィーン・フィル リヒャルト・シュトラウス他(サントリーホール)11/15

アレクサンドル・タロー 「ヴェルサイユ」(トッパンホール)11/29

パブロ・エラス・カサド指揮N響 リムスキー・コルサコフ&チャイコフスキー(サントリーホール)12/12

●番外編で、映画と本もひとつずつ。映画は「ファースト・マン」(デイミアン・チャゼル監督)。人類初の月旅行の話がこんなに暗いトーンで描かれ得るとは。悲しい、しかしズシリと来る傑作。本は「モスクワの伯爵」(エイモア・トールズ著/早川書房)。こちらは一種の大人のためのファンタジー。温かい。
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●お知らせを。今年も大晦日の夜はFM PORTの年越し生放送「Goodbye2019 Hello2020」に出演する。新潟県内の方は電波ラジオ/またはラジコで、それ以外の方もラジコプレミアムなら聴取可。23時スタート、深夜1時終了。今の自分にとっては挑戦的な夜の遅さなので、カフェインの力を借りて立ち向かいたい。
●年末年始の当欄は不定期更新で。よいお年をお迎えください。

December 27, 2019

映画「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」

●映画館で「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」を見てきた。1978年にオリジナル三部作の第1作が公開されたとき、シリーズ生みの親、ジョージ・ルーカスは「スター・ウォーズ・サーガ」は全9部作であることを明言していた。1983年にオリジナル三部作が終わった時点では、続編の見込みはまったく立っていなかったはず。それが紆余曲折を経て、当初の構想通りついに全9部作が2019年に完結した。まさか完結する時点で作品がルーカスの手を離れ、ディズニー傘下で作られることになるとは。この伝説的な映画の製作そのものがひとつのサーガだったんだと思う。9部作すべてを映画館で見ることができた今、ワタシは感動に浸っている……と言いたいところだが。なんだこりゃ。
●シナリオ以外はとてもよくできている。音楽も映像もクリーチャーのデザインも。しかし、ストーリーに新しいアイディアや驚きの展開がなく、前作のおしまいからシリーズの結末までを最短経路でつなげたような話で、あっけに取られているうちに思わせぶりなエンディングを迎えてしまった。ラストシーンをあの場所で迎えるというのはとてもいいんだけど、ディテールはともかく、幹となる物語の弱さ、別の言い方をすると「スター・ウォーズ」の肝となる神話性の欠如を感じずにはいられなかった。
●いや、それとも自分がもうアクションだとかカーチェイスならぬ宇宙船チェイスを楽しめなくなったというだけのことなのか? オリジナルの三部作だって、実のところ練りあげられたものではなかっただろうし、今から思えばずいぶん雑な話だったのかもしれない。続く「アナキン三部作」(とワタシは呼ぶ)は、圧倒的な映像美の一方で演出に頭を抱えつつ、しかし最後にやってくるクライマックスに留飲を下げることができた。だから今回の「レイ三部作」(とワタシは呼ぶ)も、最後の最後で大きな見せ場があるのではないかと期待していたのだが、結局のところ旧作をなぞったものとしか思えなかった。でも、こうなるのはしょうがないのかも。シリーズそのものがあまりに伝説化してしまったために、だれも大胆なアイディア、予想外の展開を盛り込めなくなってしまった。生みの親のルーカス以外に予定調和を覆すことなど、許されるだろうか。
●「スター・ウォーズ」がディズニー傘下に移った時、多くのファンが心配したのは、男の子が夢中になる「スター・ウォーズ」的なカッコよさがディズニーによって失われ、角の取れたファミリー映画になってしまうのではないかということだった。でも、今はその心配が見当違いだったとよくわかる。ルークからレイによって置き換えられた、現代のディズニー的な主人公像は諸手を挙げて歓迎できる。女の子は王子様を待つのではなく、自分で戦い、自分で生き方を選ぶ。すばらしい。むしろ、新しい「スター・ウォーズ」がディズニーらしいウェルメイドな物語になれなかったことが惜しくてならない。「アナと雪の女王」とか「ズートピア」とか「マレフィセント」とか「シュガー・ラッシュ オンライン」みたいな、練り上げられた脚本で「スター・ウォーズ」が更新されていたら。

December 26, 2019

マリノスは買い続ける

●さて、Jリーグはめでたくマリノスの優勝で幕を閉じたわけだが、オフシーズンはサッカーはお休みかといえば、そうではない。むしろ、今こそサッカー界は動いている。DAZNマネーで賞金額が増えたおかげなのか、今までは「あー、今季は主力のだれが引き抜かれちゃうのかなあ、浦和とか川崎とかに行っちゃうんだろうな」とうつむき加減で過ごすしかなかったのだが、優勝するとこうも立場が変わるんだというのを実感中。
●以下、現時点でのマリノスの契約選手状況をメモしておくので、マリノスなんて関係ないよっていう人も目を通して、ぜひ羨ましがってほしい。まず今季優勝の立役者、センターバックのチアゴ・マルチンスが完全移籍。今まではパルメイラスからのローンだったが、これで一安心。同じくタイのムアントンユナイテッドからのローンだったティーラトンもマリノスに完全移籍。コープクンカップ。中林洋次、和田拓也もそれぞれ広島からのローンだったが、マリノスに完全移籍。新戦力では、浦和所属(大分にローン)のフォワード、オナイウ阿道をゲット。大きく成長してほしい。徳島ヴォルティスの正ゴールキーパー、梶川裕嗣も加入。朴一圭と正守護神争いをすることになる。レノファ山口からはディフェンスの前貴之、京都サンガからはミッドフィルダーの仙頭啓矢が移籍。そして正式発表はまだだが、報道によるとセレッソ大阪から水沼宏太を獲得するとか。たくましくなって帰ってくる、レジェンドの息子。マルコス・ジュニオールをはじめ、主力勢も順調に契約更新している。
●気前よくショッピングを楽しむように次々と選手を獲る……ように一見見えるわけだが、なにしろ来季はACLを戦わなければならず、選手層を厚くしなければならない。
●もちろん、去る人もいる。ドゥシャンや杉本大地とは契約せず。もっと若い選手たちで契約を終えて静かに去っていく選手たちもいる。プロスポーツの厳しさを感じずにはいられない。ひとつだけ、去る人の話題で朗報なのは、ヘッドコーチのピーター・クラモフスキーだ。ポステコグルー監督の長年の右腕だったが、来季は清水エスパルスの監督に就任するそう。監督初挑戦をJリーグで。これはおめでたい話なので、快く送り出したい。清水でも超攻撃的布陣を敷いて、みんなをあっと言わせてほしい。そして、サポーターのみなさんには、ハイラインのスリルを味わってほしい。ああ、サッカーって、こんなにあっさり失点するんだ、という驚きも、ぜひ。

December 25, 2019

シャーロック・ホームズと「ボエーム」

●メリクリ。サンタさん、おつかれさまでした。
●クリスマスといえばオペラ「ボエーム」。先日、その原作であるアンリ・ミュルジェール著の「ラ・ボエーム」が光文社古典新訳文庫から刊行された。原作の本来の書名は「ボヘミアン生活の情景」だが、有名なオペラのほうに揃えたということなんだろう。この原作、コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズにも登場していたことに気づいた。
読んでいるのはホームズではなく、ワトソンのほう。「緋色の研究」のなかで、夜、尾行に出かけたホームズを、ワトソンがワトソンが待っているという場面。

ホームズが出かけたのが9時近く。どのくらいで帰ってくるか見当もつかなかったが、わたしはぼんやりとパイプをふかしたりアンリ・ミュルジェの『ボヘミアンの生活の情景』を拾い読みしたりしていた。

●なるほど、あの分厚さであれば、いつ帰ってくるかもわからないホームズを待ちながら「拾い読む」のにふさわしいかもしれない。ちなみに「緋色の研究」にはホームズがヴァイオリンについて蘊蓄を傾ける場面などもあって、なにかと楽しい。一夫多妻制時代のモルモン教についての描き方も興味深いところ。
●ジョージ・クラムの「1979年のクリスマスのための小組曲」をSpotifyで貼り付けるテスト。


December 24, 2019

シモーネ・ヤング指揮NHK交響楽団の「第九」


●23日はNHKホールでシモーネ・ヤング指揮N響のベートーヴェン「第九」。まだ年の瀬っていう気分でもなかったんだけど、はっと気がついたらもうこんな時期。毎年そうだけど、12月は年末進行だのなんだのであっぷあっぷともがいているうちに、あるとき急にパッと視界が開けて仕事納め(のようなもの)がやってくる。そのラストスパートの合図が「第九」なのかも。フロイデ!と鳴り渡る歓喜の号砲。
●今回のN響「第九」の指揮はシモーネ・ヤング。以前に聴いたときも好感触で、ドイツ音楽、特にロマン派のレパートリーが得意な印象だが、ベートーヴェンを聴くのは初めて。初日の21日にラジオで生中継された様子を途中まで聴いて、過度に重厚ではなく、歯切れよく弾むようなリズムが特徴的だなと感じていた。実演で聴くと意外と音量は抑制的で、巨大空間にディテールが埋もれた感もあるのだが、「第九」オートマティズムとの対決という点で聴きごたえあり。終楽章は語り口豊かで、途中からヒヤリとするほどスピードが上がりだして、猛烈な勢いで駆け抜けた。合唱の歌わせ方もところどころ独特で、全体としては表現のコントラストをはっきりつけたいということなのか。マリア・ベングトソン、清水華澄、ニコライ・シュコフ、ルカ・ピサローニの独唱陣と東京オペラシンガーズの合唱。合唱は見事。起伏に富み、雄弁。
●今年もNHKホールの前の代々木公園は「青の洞窟」で真っ青に輝いていた。ビバ、青色LED。鐘の前に行列ができていて、代わる代わるみんなでガランゴロン鳴らす。煩悩の数だけ鳴らすのであろうか。

December 23, 2019

「メインテーマは殺人」(アンソニー・ホロヴィッツ著/創元推理文庫)

●これまでに読んだ「カササギ殺人事件」「シャーロック・ホームズ 絹の家」「モリアーティ」がことごとく傑作だったアンソニー・ホロヴィッツ。新作の「メインテーマは殺人」(創元推理文庫)もおもしろくないはずがない。と思って読み進めているうちに、これが「このミス2020」海外編の1位になったと知る。納得。すばらしく冴えている。
●今回の「メインテーマは殺人」の主人公は著者自身。作家本人が主人公として登場するのだが、彼のもとに元刑事の切れ者が訪れる。この元刑事が異様に鋭い観察眼の持ち主で、著者を一目見ただけで「しばらく田舎で過ごしていただろう」とか「新しい子犬を迎えた」とかズバズバと推理を的中させる。つまりこの元刑事がホームズ役、著者がワトソン役なんである。著者は本を書くために殺人事件の捜査をワトソン役として取材する……で、書かれたのがまさしくこの本というメタな趣向。本筋の謎解き部分はとてもフェアで、よく練られている。でもなによりすばらしいのは、読んでいて気持ちよくて、どんどんページをめくりたくなるところ。ミステリとは無関係のところでおもしろいところがいくつもあって、たとえばこういう一節。

原則として、わたしはウィキペディアは避けることにしている。探したいものがはっきりとわかっている場合には、あれはごく便利なサイトではあるが、あまりにまちがいが多すぎる。そのため、作家がウィキペディアを使って、いかにもきっちりと調べましたという顔をしようとすると、往々にして大失敗をやらかすことになってしまうのだ。

わかりすぎるくらいわかる真実。あるいはこれも。

もの書きを本業としている人間にとって、仕事を断ることほどつらいものはない。もう二度と開かないかもしれない扉を、自らぴしゃりと閉めてしまうようなものだからだ。

●読み終わった後で、最初に戻ってざっと眺めていると、「あ、ここにこんなことが書いてあるのじゃないの!」みたいな発見があって楽しい。

December 20, 2019

アンサンブル天下統一 ~ Hakuju サロン・コンサート

●19日はHakujuホールで「アンサンブル天下統一」と名付けられた弦楽三重奏。メンバーは長原幸太のヴァイオリン、鈴木康浩のヴィオラ、中木健二のチェロ。読響勢のヴァイオリンとヴィオラに、元ボルドー・アキテーヌ管弦楽団首席奏者のチェロが加わってのトリオ。アンサンブル天下統一とは、まるで戦国武将みたいなユニット名だなあ……と思っていたら、ある意味その通りで、愛知県の岡崎市シビックセンターのレジデントアンサンブルなので、岡崎といえば徳川家康ということでアンサンブル天下統一なんだとか。岡崎発で全国を制する腕達者たち。納得のネーミング。
●で、プログラムは前半はオペラ由来の編曲作品で、ビゼーによる弦楽三重奏のためのカルメン・ファンタジー、モーツァルトの「魔笛」の主題による組曲。いずれも編曲は松本望。この編曲がすごくよくできている。ヴァイオリンはもちろんのこと、チェロにもヴィオラにも見せ場があって楽しい。「カルメン・ファンタジー」はその名にふさわしく、超絶技巧で彩られる。「魔笛」ではまさかの体当たりギャグまで飛び出して、客席にどよめきと戸惑いが。後半は純然たる三重奏作品で、モーツァルトのディヴェルティメント 変ホ長調K563。キレキレでダイナミック、歌心にも富み、パッションとユーモアを兼ね備えたモーツァルト。この曲、ピアノ協奏曲第27番とかピアノ・ソナタ第16番変ロ長調、クラリネット五重奏曲など、他の早すぎた晩年の傑作群と同様に、明るい曲調であっても常に寂寥感がつきまとうのがたまらない。アンコールにバッハの「ゴルトベルク変奏曲」の弦楽三重奏版からおしまいの2曲。
●ヴィオラの雄弁さが痛快。弦楽三重奏は四重奏と違って、三人全員が主役なんだなと感じる。

December 19, 2019

EAFF E-1サッカー選手権 韓国代表vsニッポン

ニッポン!●EAFF E-1サッカー選手権、最後の第3戦は対韓国戦。ニッポンは勝つか引き分けで優勝が決まるという有利な状況だが、会場は釜山。完全アウェイでの韓国戦になった。勝つしかない韓国は予想通りキックオフと同時にすさまじいプレッシャーをかけてきた。球際の強さ、激しい当たり、スピードと運動量、すべてにおいてニッポンは圧倒されて防戦一方に。前半28分、ついに耐え切れず失点。左サイドからボールを受けたファン・インボムが技巧的なトラップでディフェンスを交わして、左足を振り抜いてシュート。これは文句なしのスーパーゴール。この1ゴールが決勝点に。
●その後、韓国のプレイ強度は格段に落ちて、ニッポンも普段のプレーができるようになった。いくら韓国でもあの激しさで90分戦えるはずがなく、前半の終わりごろからはニッポンがボールを持つ時間も増え、攻撃機会も増えたのだが、選手の連携不足もあって、決定機を作り出せず。韓国 1-0 ニッポン。韓国が描いたゲームプラン通りになってしまった。序盤の韓国の激しさについていけなかったこと以上に、韓国がペースダウンした後に攻め手が乏しかったことのほうが痛い。
●森保監督はメンバーをローテーションして、今回のチームの主力組を起用。Jリーグ・オールスターズといったところ。布陣はやはり3-6-1。左右のウィングバックに遠藤と橋岡、トップに上田、ツーシャドウに森島と鈴木武蔵という攻撃陣。しかし序盤のように攻め込まれると両ウィングバックもバックラインに吸収されて、ほとんどフラット5みたいな5バックになってしまう。こうなるとボールを跳ね返しても前が薄く、ずっと守り続けることに。あと、攻守が切り替わってカウンターになりそうな場面で、ツーシャドウがワイドに開くのか中で受けるのか、中で受けるならウィングバックが最後列から走りあがるのか等、連携が練れていないと迷いそう。3-6-1はJ1でもJ2でもけっこう使われているようなのだが、約束事の多そうな布陣だなという印象。途中交代でまたツーシャドウの位置に入った仲川は今回も持ち味を発揮できず。サイドからのクロスボールに身長161cmの仲川が中央で頭で合わせようとしているわけで、ポジショニングで混乱はあったと思う。
●GK:中村航輔-畠中槙之輔、三浦弦太、佐々木翔-MF:橋岡大樹、田中碧、井手口陽介(→大島僚太)、遠藤渓太(→相馬勇紀)-鈴木武蔵(→仲川輝人)、森島司-FW:上田綺世。欧州組がいないのは相手も同じで、韓国は全北現代や蔚山現代らの国内組にJリーグ、中国、MLS(ファン・インボム)でプレイしている選手が合流していた。

December 18, 2019

2020年 音楽家の記念年

●12月恒例、記念の年を来年迎える主な音楽家を挙げておこう……といっても、2020年はベートーヴェン・イヤーに決まってる。わかってる、ベートーヴェン一色になることは。すでに19/20シーズンからベートーヴェン・イヤーはすでに始まっている。だから、以下のリストはベートーヴェンの陰に隠れる人リストと言い換えられるのかも。ベートーヴェン・イヤーで盛り上がっている最中に、いったいだれがブルッフ没後100年やヴュータン生誕200年を祝おうというのか。
●なお、ベートーヴェン以外は100年単位で区切りを迎える人を挙げておく。50年区切りだと約25人に一人の音楽家は該当するわけでありがたみがないし、ぜんぜんキリもよくない。「ベートーヴェン250」だけは特別。

[生誕100年]
ブルーノ・マデルナ(作曲家、指揮者)1920-1973
アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ(ピアニスト)1920-1995
ヴァーツラフ・ノイマン(指揮者)1920-1995
アイザック・スターン(ヴァイオリン奏者)1920-2001
諏訪根自子(ヴァイオリン奏者)1920-2012
リタ・シュトライヒ(歌手)1920-1987
ラヴィ・シャンカール(シタール奏者)1920-2012

[没後100年]
マックス・ブルッフ(作曲家)1838-1920

[生誕200年]
アンリ・ヴュータン(ヴァイオリン奏者、作曲家)1820-1881
ジョージ・グローヴ(グローヴ音楽辞典初版編集者)1820-1900

[生誕250年]
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(作曲家)1770-1827

[生誕300年]
ヨハン・フリードリヒ・アグリーコラ(作曲家)1720-1774

[没後400年]
トマス・キャンピオン(作曲家)1567-1620

December 17, 2019

「椿姫」シンクロニシティ

ジュゼッペ・ヴェルディ●先日、矢内原美邦演出による全国共同制作オペラ「椿姫」の記者会見の模様をご紹介したが、東京芸術劇場での公演は2月22日。同じ日の同じ時刻に、二期会も東京文化会館で「椿姫」を上演していることに気がついた。同時進行する「椿姫」。よーいドン!でくりひろげられる同じ愛の物語。
●二期会のほうは4公演あるので、両方見たい人が重なって困るということにはならないが、「椿姫」はつい先日まで新国立劇場でも5公演上演されていたわけで、みんなどれだけ「椿姫」が好きなのかって気はする。この冬、東京でバタバタと倒れ続けるヴィオレッタ。ヴェルディは偉大。

December 16, 2019

EAFF E-1サッカー選手権 ニッポンvs香港代表

香港●EAFF E-1サッカー選手権、中国戦に続く第2戦は香港戦。この大会の名称、EAFF E-1サッカー選手権というやたらと覚えにくい名前になってしまったが、前身は東アジアサッカー選手権、さらに遡ればダイナスティカップであり、1998年のダイナスティカップはニッポン代表が初めて公式国際大会のタイトルを獲得した大会でもあった。が、今はインターナショナルマッチウィークに開催できないゆえに欧州から選手を呼べず、国内組だけで戦う注目度の低い大会になっている。しかも森保監督は五輪代表候補の若い選手をたくさん呼んでしまったので、フル代表なのに知らない選手がたくさん。この香港戦は五輪代表+JリーグMVPの仲川みたいな先発メンバーで、初戦から選手全員を入れ替えるという徹底したローテーション。
●で、選手の個の力に大差があったため、試合は一方的な展開に。ほとんどニッポンが攻め続け、前半8分にこぼれ球に菅が完璧なボレーでゴールを決めると、さらに14分に田川、26分に小川航基が決めて、あっという間に勝敗は決着してしまった。その後、46分、後半13分にも小川が決めてハットトリック。小川はJ2の水戸ホーリーホックでプレイする22歳。J2の選手がフル代表デビューでハットトリック。こんなことが起きるのもこの大会だからこそ。結果は5対0。香港は本来は堅守のチームらしいのだが、守備組織がまったく機能せず。
●練習試合みたいになってしまったが、ひとつ目立った点を挙げるとすると森保監督が3-4-2-1の布陣を採用していることか。近年のニッポン代表は4バックで、4-2-3-1(または4-3-3)のシステムが基本。しかし森保監督が本来好むのは3-4-2-1。プレッシャーの低い状況でこの布陣をテストしているようだが、もしこれが基本システムになるのなら大変革。トルシエの「フラット・スリー」以来の3バックが定着するか。3-4-2-1だとセンターバックが3人も必要になる。それとサイドの選手がウィングバック的な選手のみで、仲川のような純然たるウィンガーの居場所が見つからない。森保監督は仲川を2シャドウのひとりに起用したが、ほとんど持ち味を生かせなかった。3-4-2-1は4-2-3-1(4-3-3)と比べるとアウトサイドでプレイする選手が減り、中央でプレイする選手(センターバック、2シャドウ)が増える。選手に合わせてシステムを選択するのか、システムありきで選手をあてはめていくのか(この日の仲川はそうだった)、森保監督の狙いがどこにあるのかは気になるところ。
●ニッポンのメンバーのみ記しておこう。GK:大迫敬介-DF:古賀太陽、渡辺剛、田中駿汰-MF:菅大輝、田中碧(→畠中槙之輔)、大島僚太、相馬勇紀-田川亨介、仲川輝人-FW:小川航基(→上田綺世)。

December 13, 2019

パブロ・エラス・カサド指揮N響の「冬の日の幻想」

●12日はサントリーホールでパブロ・エラス・カサド指揮N響。エラス・カサドはスペイン生まれの42歳で、今回がN響定期デビュー。プログラムが少しおもしろくて、リムスキー・コルサコフの「スペイン奇想曲」、リストのピアノ協奏曲第1番(ダニエル・ハリトーノフ)、チャイコフスキーの交響曲第1番「冬の日の幻想」。スペイン人指揮者がリムスキー・コルサコフの「スペイン奇想曲」を演奏するのはよくあるとして、そこからスペイン音楽ではなくロシアつながりで「冬の日の幻想」が来るとは。指揮棒を使わずに指揮。
●冒頭の「スペイン奇想曲」から驚くほど鮮明で華やかなサウンド。続く曲でもいつものN響とは少しテイストが違っていて、とても明るい響きが印象的。強奏時でも響きのバランスが保てれていて、歯切れよく爽快。チャイコフスキーの「冬の日の幻想」は土臭くなく、洗練された壮麗さ。あまりほかの客演指揮者陣にはいないタイプでもあるので、ぜひまた呼んでほしい。リストのソリスト、ダニエル・ハリトーノフはまだ20歳という若さで、ぜんぜん知らない人だったんだけど、恐るべきメカニックの持ち主。キレッキレのリスト。パワフルだが余裕すら感じる。最後の疾走感は鮮烈。ソリスト・アンコールが2曲もあって、練習曲op10-6とop10-12「革命」。これも立派ではあるんだけど、本編の強い印象が上書きされるのが惜しい感じ。
●チャイコフスキーの交響曲って、レコーディングなんかでも「後期三大交響曲」みたいにまとめられがちで、なんとなく123+456で前後半に分けられていると思う。でも実際の創作期間でいうと4と5の間に大きなブランクがあるので、1234+56っていう分け方になる。で、チャイコフスキーは第5番についてやたらと自信がなさそうで、自作に否定的な言葉を残しているんだけど、あれは(ここから自分の妄想なんだけど)、久々に書いた割には前作と似たような趣向の曲で、なんだかあざとさが丸出しになっていて「これってどうなのよ?」と自分でも感じていて、その思いから第6番「悲愴」という型破りな傑作が生まれたんじゃないだろうか。で、そこで寿命が尽きなければ、その後、6番と同じような成熟度を持った第7番、第8番を書いて、最後にベートーヴェンばりのなんらかの統合的な要素を持った第9番を書いていたかも。たとえば、交響曲第9番「バレエ付き」とか。

December 12, 2019

ヴィキングル・オラフソン&新日本フィル トリフォニーホール・グレイト・ピアニスト・シリーズ

●11日にはすみだトリフォニーホールでヴィキングル・オラフソン。アイスランド出身の話題のピアニストだが、ようやくライブで聴くことができた。前半はピアノ・ソロ、後半は新日本フィルとの共演という、すみだトリフォニーホールならではのスタイル。まずはバッハの「ゴルトベルク変奏曲」からアリアだけを弾いて、なぜかトークが入る。続くバッハ作品の紹介をして、この日のプログラムのテーマである「変奏」について、「キリスト教でいえばアダムとイブから始まったように、この世はみんなバリエーションなんだ」みたいな話。それからバッハの「イタリア風アリアと変奏」BWV989。「ずっと若い頃に書かれた、ゴルトベルク変奏曲への準備」のような曲。先にアリアを聴いているせいもあるけど、かえって「ゴルトベルク変奏曲」がバッハの作品においてさえも特別な高みに到達しているのだと感じる。曲が終わると、ほとんど間を置かずに、拍手なしでベートーヴェンのピアノ・ソナタ第32番ハ短調へ突入するという、ドラマティックな展開。こちらも後半の第2楽章が変奏曲。オラフソンは緻密にコントロールされたタッチで、清爽とした響き。随所に新鮮なアーティキュレーションが採用されていたりインスピレーションに富んでいるけど、あくの強さは感じない。でも、ソロは別の機会にもう少し小さな空間で聴いてみたいかな。
●休憩後はモーツァルトのピアノ協奏曲第24番ハ短調で、こちらも第3楽章が変奏曲。オラフソンが新日本フィルを指揮しながら演奏。指揮のほうはさまになっているとは言いがたいけど、弱音の表現を生かした能弁なモーツァルト。アンコールはピアノ協奏曲第23番の第2楽章。耽美。アルバム・ジャケットなどから、なんとなくオタクっぽい雰囲気の人を想像していたら、パッと明るい感じでしゃべる人だったのが意外。

December 11, 2019

「ラ・ボエーム」原作が光文社古典新訳文庫から刊行

●これまで邦訳がなかったと思うのだが(たぶん)、アンリ・ミュルジェール著の「ラ・ボエーム」が光文社古典新訳文庫から刊行された。「ラ・ボエーム」といえば、もちろん、プッチーニのオペラを思い出すわけだが、オペラの対訳はあっても、その出発点である原作を読めないもどかしさがあったわけで、これは朗報。
●いやー、なんでオペラのほうはあんな人気作なのに、原作がなかったんすかねー、さっそくポチッとな、と思って価格を見てギクリ。文庫本で1760円ということはページ数は……おお、672ページ! なんだそれは。このページ数に大いにひるんで、まずはいったん書店で手にしてみるかと思いなおす。そんなに厚いんだったらkindle版がほしいけど、しばらく待っていたら出るんだろうか。うーん、どっちなんだ、これは。
●Jリーグが感動的な幕切れ(←マリノス・ファン限定)を迎えたと思ったら、中二日で代表戦。EAFF E-1サッカー選手権が韓国で開催されて、まずは中国対ニッポン戦で始まった。しかしそんなにすぐに代表戦があるとは思わず、テレビの録画予約を忘れてしまう。DAZNに慣れた今、わざわざ録画を予約しなければいけない試合があることに不条理を感じる始末。慣れって怖い。国内組による実質B代表みたいなチームなので、気持ちが盛り上がっていないせいもあるかも。

December 10, 2019

アラン・ギルバート指揮都響のバルトーク、アデス、ハイドン他

●9日は東京文化会館でアラン・ギルバート指揮都響。プログラムが実に魅力的。前半にリスト(ジョン・アダムズ編曲)の「悲しみのゴンドラ」、バルトークのヴァイオリン協奏曲第1番(矢部達哉)、後半にアデスの「クープランからの3つの習作」(2006/日本初演)、ハイドンの交響曲第90番。ジョン・アダムズとアデスというふたりの現代の作曲家がそれぞれリストとクープランを題材にぜんぜん違ったスタイルで編曲しているというおもしろさがあり、一方でリスト、バルトーク、エステルハージ家のハイドンというハンガリー要素も含んでいる。
●ジョン・アダムズが「悲しみのゴンドラ」を編曲したのは1989年。絢爛たるオーケストレーションで彩られるのかと思いきや、オーソドックスな2管編成を用いたもので、アデスよりもむしろこちらのほうが習作的というか、なにかを試している感あり。一方、アデスのほうはクープランのクラヴサン曲「気晴らし」「手品」「魂の苦しみ」の3曲を題材とした再創造。2群に分けた弦楽器や、打楽器群の活用などで独自の音響を生み出す。マリンバや大太鼓を使いながらももっぱら弱奏で、繊細な音色のうつろいを実現する。バルトークのヴァイオリン協奏曲、第1番はめったに聴けないので貴重な機会。聴き終えてすぐにもう一度聴きたくなる。
●白眉はハイドン。ギルバートは以前も感じたけど、明るく爽快な音色を引き出す。磨き上げられたアンサンブルによる軽快でのびやかなハイドンで、隅々にまで音楽の愉悦が溢れている。この第90番の終楽章にはハイドン一流の仕掛けがあって、途中でニセのエンディングが入る。曲が終わったように見せかけて、実は終わっていないという罠。4小節の総休止が入る。ここで拍手が起きるのが本来のあり方だが、心配だったのは都響のお客さんは作品知識があるのでだれも騙されないのでは?という点。だれも拍手してくれないとこの曲を選んだ甲斐がない。が、ちゃんと拍手は出た! たぶん、終わってないと承知であえて拍手してくれた人が何人もいたのでは。で、そのあと、素直に終わってもいいのだが、ラトルとベルリン・フィルの録音のようにリピートしてもう一回騙すという手があって、2周目へ。ただし、2度目は小芝居が入って、拍手が起きた後にコンサートマスターが指揮者に「まだ終わってないですよ?」と言わんばかりに楽譜を見せてアピール。騙されたのは指揮者という体でギルバートが「ゴメンナサイ」とつぶやいて続きを演奏する。会場はどっと沸く。本当に演奏が終わった後、カーテンコールでギルバートはさっと指揮の構えを見せて、まだやるよとばかりに戯れのポーズ。笑。この曲、「驚愕」がだれもびっくりしない「驚愕」になったように、いずれはだれも騙されないニセエンディングになってしまうのかもしれないが、今のところはまだ大丈夫。

December 9, 2019

祝! マリノス、15年ぶり4度目のJリーグ優勝


●こんな展開をだれが予想していたのか。J1最終節はマリノスvsFC東京で、1位対2位の優勝を決める直接対決になった。もっとも、前節に東京が浦和と引き分けたことから、マリノスは「4点差以上で負けなければ優勝」という有利な状況。まあ、以前に4点差で負けたこともある相手なので、油断はできない。早い時間帯で失点を重ねれば勢いで押されるということだってありうる。なにしろマリノスは得点も失点も多いチームなので……と、思っていたが、前半26分、ティーラトンのミドルシュートがスライディングしてきた東慶悟に当たってコースを変え、これがきれいにキーパーの頭を超えてゴールへ。その後、エリキ、後半に遠藤渓太(見事な個人技)が追加点を奪って、3対0。祝祭的な雰囲気の中、ホームで優勝を決めた。
●DAZNではその後のセレモニーも延々と中継してくれて、これが泣ける場面続出。シャーレを掲げて喜びを分かち合う選手やコーチ、スタッフたち。そして、選手たちは途中でチームを去ったかつての仲間のシャツを着て、彼らに成り代わって優勝を祝う。キーパーの飯倉大樹やベルギーに行った三好康児、等々。極めつきは松田直樹の3番だ。天に向けての優勝報告。それから大ベテランとなった栗原勇蔵の長い長い引退セレモニー。功労者の栗原に花道を用意することができて本当によかった。ザッケローニ元日本代表監督らがビデオメッセージを寄せてくれた。
●リーグ戦の間、ずっとてっぺんに東京がいて、マリノスは3位くらいで追いかけていたのが、最終盤になってはじめて1位に躍り出て、そのままゴールを切った。なので、優勝争いを実感したのは本当に最後のほうになってから。終わってみれば1位マリノスが勝点70、2位東京が64。勝点6も引き離しているのに驚く。22勝8敗4分。得点68、失点38。失点の多いチームだったが、終盤ではずいぶん守備が落ち着いてきたのがよかった。
●昨季、残留争いまでしたマリノスが、同じポステコグルー監督、同じ戦術でなぜ優勝できたのか。きっと「この超攻撃的な戦術が浸透したから」というまとめられ方になると思うが、自分にはそんな実感はない。最大の勝因は、選手層の厚みかなと思っている。なにしろ途中まで11ゴールをあげていた絶対的エース・ストライカー、エジガル・ジュニオがケガで離脱したというのに、その後にエリキやマテウスら、次々と優秀な選手を獲得できたのが大きかった。リーグMVPに輝いた仲川輝人と、マルコス・ジュニオールのふたりが15ゴールで並んで得点王。急成長を遂げた仲川のMVPは文句なしだが、このチームで決定的な存在はセンターバックのチアゴ・マルチンスだったとも感じる。ずっと上のレベルでやれる選手がなぜかここにいるというか。遠藤渓太のようにベンチに置かれた選手もクォリティが高かった。両サイドバックのポジション争いも熾烈。これだけの層の厚みはかつてなかった。

December 6, 2019

わかりやすい文章を書く秘訣

●よくある誤解で、執筆者が自信を持って書いた原稿を編集者に送ったところ「これは難しすぎるから直してほしい、もっと平易な原稿をお願いしているのだ」と差し戻されてしまい、執筆者はいったいどこが難解なのか見当がつかず、ここにはぜんぜん難しい話など書いていない、おたくの読者にとってこの程度の話はまったく問題がないはずであり、これを難解と差し戻すとは編集者としての見識が疑われる、といったような反発が起きてしまい、機嫌を損ねた執筆者と途方に暮れる編集者の間で不穏な空気が漂う、そんな事故はそれほど珍しくないものであるのだが、なぜそんなことが起きるのかといえば、実をいうと編集者側は必ずしも原稿中に扱われる概念や思考の道筋が難解だと感じているわけではなく、本音では日本語が拙くて文章がわかりにくいからもっと上手に書けと要望しているのであるが、それを婉曲的に「易しくしてほしい」と表現しているだけなのではないか、そんな疑念がずっとつきまとっており、実際に記憶をたどってみれば思い当たる節がなくもなく、軽く身震いしながら認めるなら、わかりやすい日本語を書くことは本当に大切で、その内容がかなり込み入ったものだったり論理が飛躍したものであったりしても、日本語がきれいであれば編集者はしばしば「わかりやすい原稿をありがとうございます」と感謝してくれることすらある一方で、たんに目玉焼きのレシピを記したにすぎない原稿が日本語が整えられていないばかりに「難解すぎる」とダメ出しを食らう危険性は十分にあると確信しているわけで、それではどうやったらわかりやすく書けるのか、するりとスムーズに編集者に受け入れてもらえるのかといえば、それについてはかつて絶対的な真実をある偉大な先人から教わったことがあるので、ここに気前よくズバッと大公開しておくと、いわく、一文は長くならないように文章を短く切れ、それだけのことであるがまさしく極意と呼ぶほかなく、これほど有益なアドバイスをワタシはほかに知らない。

December 5, 2019

ビシュコフのチャイコフスキー「悲愴」論

●しばらく前に来日公演があったビシュコフ&チェコ・フィルのプログラムノートに、ビシュコフのインタビューが載っていた。この種のインタビューには珍しく、作品解釈についてあれこれ語っていて、チャイコフスキー「悲愴」の話がおもしろかった。
●ビシュコフは「悲愴」最大の秘密はフィナーレの意味だとして、初演を指揮して9日後に亡くなったチャイコフスキーの死因について、よく言われるコレラ説ではなく「自殺説がもっとも信憑性が高い」としている。自殺説はかつてニューグローヴ世界音楽大事典でも採用されていた時期があったが、最近はあまり耳にしない。まあ、どれも決定的な証拠を欠くだろうから、なんだってありうるのかもしれないが、その説を作品解釈の形で実践できるのが指揮者ならでは。ビシュコフはフィナーレを「死への抵抗」と解釈して、「死を受容したという一般的な解釈とは違った観点で臨む」と語っている。そんなの表現できるものなの?とも思うが、確かめたかったら彼らの録音を聴けばいいわけだ。

December 4, 2019

今シーズンのJFL全日程が終了、J3昇格は今治のみ

●だれにも興味を持ってもらえなさそうな話題だが、今季のJFLの全日程が終了したので、結果を記しておこう。優勝はHonda FCで4連覇。2位はソニー仙台。1位も2位もJリーグを目指していない企業チームになってしまった。そのため3位の今治がJ3に昇格。問題は4位の東京武蔵野シティFC。成績はJ3昇格条件を満たしており、J3ライセンスも持っているのだが、「平均入場者数2000名」という昇格条件を満たせなかったので、来季もJFLに残ることに。
●先日書いたように武蔵野シティは平均2000名をクリアすべく、最後の数試合で極端に入場者数を増やしていた。ラスト2試合目は武蔵野陸上競技場にまさかの5284名。これでホーム最終戦に5703名を集めれば平均2000名に届くということで、奇跡が起きるかと思っていたら、事前にクラブから「2020年のJ3入会断念について」というメッセージが発表された。そもそも同競技場の収容人数は5192名しかなく、安全管理上問題があったということで、J3昇格はないと明言。ちなみに、その最終戦に何人足を運んだかといえば、2608人で普段だったら十分に立派な数字。来季は2000名をクリアすべく開幕から盛り上がるとは思うが、ホームゲームに武蔵野陸上競技場を使えない週の集客が課題か。
●JFLの降格争いは最終節に直接対決があって、勝った松江シティが残留決定、敗れた流経大ドラゴンズ龍ケ崎(名前にリュウがいっぱいいる)が最下位となり地域リーグに降格。といってもこのチーム、流通経済大学サッカー部のサテライトチームという扱いのようで、はたから見ていると本体のチームとの関係性がよくわからない。同大学サッカー部の部員数は213名もいるそうなので、サッカー部だけでひとつのリーグが創設できそう。

December 3, 2019

鈴木優人指揮N響のメンデルスゾーン「宗教改革」他

青の洞窟
●30日、NHKホールで鈴木優人指揮NHK交響楽団。すでにオルガニストとしては出演済だが、今回は指揮者としてN響デビュー。どうやら恒例となったらしい「青の洞窟」のイルミネーションでホール前の代々木公園は真っ青。みんなスマホで写真を撮っている。前半にメシアンの「忘れられたささげもの」、ブロッホのヘブライ狂詩曲「ソロモン(シェロモ)」(チェロにニコラ・アルトシュテット)、後半にコレッリ(鈴木優人編曲&チェンバロ)の合奏協奏曲「クリスマス協奏曲」、メンデルスゾーンの交響曲第5番「宗教改革」。12月のクリスマスにちなんで、カトリック、プロテスタント、ユダヤ教入り混じった宗教プログラム。「青の洞窟」の日本風クリスマス・イベントを通り抜けた向こうにこんなプログラムが待っているというさすがの趣向。ゲストコンサートマスターにロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のヴェスコ・エシュケナージ。先週のコンセルトヘボウ管弦楽団来日公演に引き続いて。
●前半、ブロッホが終わったところで妙に長い沈黙が訪れて、なかなか拍手できず。謎の空白。アルトシュテットはアンコールになるとエンドピンをしまってバッハの無伴奏チェロ組曲第5番のサラバンド。これが極端に弱音に寄った淡々としたモノローグ風の演奏で独特。
●後半が断然おもしろかった。コレッリのクリスマス協奏曲は鈴木優人編曲でオーボエ2、ファゴット1が加えられたもの。チェンバロを弾きながら指揮。近年、モダン・オーケストラの定期演奏会でバロック音楽が取り上げられる機会がめっきり減っているけど、レパートリーの多様化という点からもこういったチャレンジは大歓迎。小編成なので、サントリーホールのB定期ならなおよかったとは思うけど……。続く、メンデルスゾーンの「宗教改革」はこの日の白眉。ホグウッド校訂による初稿で、第4楽章を導くフルート・ソロの長いレチタティーヴォが入る。これは効果的。そして、稿のいかんにかかわらず、「宗教改革」が圧倒的な名曲であることを改めて実感。信仰を超越した普遍性を感じる。

December 1, 2019

アレクサンドル・タロー 「ヴェルサイユ」


●29日はトッパンホールでアレクサンドル・タローのピアノ・リサイタル。最新アルバムと同じく「ヴェルサイユ」と題された公演で、ラモー、クープラン、ロワイエ他のフランス・バロック名曲集。小曲ばかりなのに、なぜか本人の希望により休憩なし。全体を貫く一本の大きなドラマがあるとは思えない内容なので、どういう意図なのかよくわからないが、曲の配列がよかったのか、結果的に問題なし。なお、ピアノはヤマハCFXを持ち込んで使用。
●まずは幕開けの音楽ということで、リュリ(タロー編)の「町人貴族」より「トルコ人の儀式のための行進曲」。いきなり愉快。続いて、クープランのクラヴサン曲集から「ロジヴィエール(アルマンド)」「神秘的なバリケード」「パッサカリア」「さまよう亡霊たち」「ティク・トク・ショック、またはオリーヴしぼり機」。タロー十八番の「ティク・トク・ショック」、いろんな人が弾いてるとは思うけど、タローの「持ち曲」みたいなイメージになっている。ところで前から謎なんだけど、この「ティク・トク・ショック」っていうのは「オリーヴしぼり機」とやらが動く際の擬音ということなんだろうか? そもそも Les maillotins が「オリーヴしぼり機」なのがよくわからない。画像検索しても棍棒とか斧みたいな形状のものが出てくるのだが、オリーブをしぼるためのメカニズムとして棍棒状のパーツを用いた「しぼり機」があったのか?
●と話がずれてしまうが、これに続いたのがロワイエのクラヴサン曲集第1巻より「愛すべき」「スキタイ人の行進」。この「スキタイ人の行進」が痛快。これもタローにぴったりの曲で、第二の「ティク・トク・ショック」というか、運動性とユーモアが同居した名演。ここで思い切りはじけて、盛り上がったところでようやく立ち上がって拍手を促して袖へ。遅刻したお客さんを入場させると同時に、客席にもプログラムの切れ目を知らせる。
●続いて、ラモーの「プレリュード」「鳥のさえずり」、バルバートルの「ラ・シュザンヌ」、デュフリの「ラ・ド・ブロンブル」「ラ・ポトゥワン」。ここでまた立ち上がって一息入れて、ラモーの新クラヴサン組曲より、アルマンド、クーラント、サラバンド、小さなファンファーレ、ガヴォットと6つの変奏。これも録音が既出だが、ライブならではの熱い演奏でノリノリ。全体としてモダンピアノのダイナミズムときらびやかな音色を最大限に生かした演奏で、曲のユーモアとエレガンスを拡大したコントラストの強い表現。オシャレ悪ノリというか。
●アンコールではメモを読みながら日本語で曲名を案内する茶目っ気も披露。ラモーの「未開人」、スカルラッティのソナタ ニ短調 K141、ロベール・ド・ヴィゼのサラバンドの3曲。スカルラッティは羽目を外して大はしゃぎするかのよう。執拗さが笑いに通じる曲。タローは終始ご機嫌で、どうしちゃったのかと思うほどハイテンション。こんなキャラだったっけ?と思わなくもないけど、今季随一の楽しさ。

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