December 13, 2019

パブロ・エラス・カサド指揮N響の「冬の日の幻想」

●12日はサントリーホールでパブロ・エラス・カサド指揮N響。エラス・カサドはスペイン生まれの42歳で、今回がN響定期デビュー。プログラムが少しおもしろくて、リムスキー・コルサコフの「スペイン奇想曲」、リストのピアノ協奏曲第1番(ダニエル・ハリトーノフ)、チャイコフスキーの交響曲第1番「冬の日の幻想」。スペイン人指揮者がリムスキー・コルサコフの「スペイン奇想曲」を演奏するのはよくあるとして、そこからスペイン音楽ではなくロシアつながりで「冬の日の幻想」が来るとは。指揮棒を使わずに指揮。
●冒頭の「スペイン奇想曲」から驚くほど鮮明で華やかなサウンド。続く曲でもいつものN響とは少しテイストが違っていて、とても明るい響きが印象的。強奏時でも響きのバランスが保てれていて、歯切れよく爽快。チャイコフスキーの「冬の日の幻想」は土臭くなく、洗練された壮麗さ。あまりほかの客演指揮者陣にはいないタイプでもあるので、ぜひまた呼んでほしい。リストのソリスト、ダニエル・ハリトーノフはまだ20歳という若さで、ぜんぜん知らない人だったんだけど、恐るべきメカニックの持ち主。キレッキレのリスト。パワフルだが余裕すら感じる。最後の疾走感は鮮烈。ソリスト・アンコールが2曲もあって、練習曲op10-6とop10-12「革命」。これも立派ではあるんだけど、本編の強い印象が上書きされるのが惜しい感じ。
●チャイコフスキーの交響曲って、レコーディングなんかでも「後期三大交響曲」みたいにまとめられがちで、なんとなく123+456で前後半に分けられていると思う。でも実際の創作期間でいうと4と5の間に大きなブランクがあるので、1234+56っていう分け方になる。で、チャイコフスキーは第5番についてやたらと自信がなさそうで、自作に否定的な言葉を残しているんだけど、あれは(ここから自分の妄想なんだけど)、久々に書いた割には前作と似たような趣向の曲で、なんだかあざとさが丸出しになっていて「これってどうなのよ?」と自分でも感じていて、その思いから第6番「悲愴」という型破りな傑作が生まれたんじゃないだろうか。で、そこで寿命が尽きなければ、その後、6番と同じような成熟度を持った第7番、第8番を書いて、最後にベートーヴェンばりのなんらかの統合的な要素を持った第9番を書いていたかも。たとえば、交響曲第9番「バレエ付き」とか。

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