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December 23, 2019

「メインテーマは殺人」(アンソニー・ホロヴィッツ著/創元推理文庫)

●これまでに読んだ「カササギ殺人事件」「シャーロック・ホームズ 絹の家」「モリアーティ」がことごとく傑作だったアンソニー・ホロヴィッツ。新作の「メインテーマは殺人」(創元推理文庫)もおもしろくないはずがない。と思って読み進めているうちに、これが「このミス2020」海外編の1位になったと知る。納得。すばらしく冴えている。
●今回の「メインテーマは殺人」の主人公は著者自身。作家本人が主人公として登場するのだが、彼のもとに元刑事の切れ者が訪れる。この元刑事が異様に鋭い観察眼の持ち主で、著者を一目見ただけで「しばらく田舎で過ごしていただろう」とか「新しい子犬を迎えた」とかズバズバと推理を的中させる。つまりこの元刑事がホームズ役、著者がワトソン役なんである。著者は本を書くために殺人事件の捜査をワトソン役として取材する……で、書かれたのがまさしくこの本というメタな趣向。本筋の謎解き部分はとてもフェアで、よく練られている。でもなによりすばらしいのは、読んでいて気持ちよくて、どんどんページをめくりたくなるところ。ミステリとは無関係のところでおもしろいところがいくつもあって、たとえばこういう一節。

原則として、わたしはウィキペディアは避けることにしている。探したいものがはっきりとわかっている場合には、あれはごく便利なサイトではあるが、あまりにまちがいが多すぎる。そのため、作家がウィキペディアを使って、いかにもきっちりと調べましたという顔をしようとすると、往々にして大失敗をやらかすことになってしまうのだ。

わかりすぎるくらいわかる真実。あるいはこれも。

もの書きを本業としている人間にとって、仕事を断ることほどつらいものはない。もう二度と開かないかもしれない扉を、自らぴしゃりと閉めてしまうようなものだからだ。

●読み終わった後で、最初に戻ってざっと眺めていると、「あ、ここにこんなことが書いてあるのじゃないの!」みたいな発見があって楽しい。