amazon
February 20, 2020

チョン・ミョンフン指揮東京フィルの「カルメン」(演奏会形式)

●19日は東京オペラシティでチョン・ミョンフン指揮東京フィル。東京オペラシティ定期シリーズの一公演として、ビゼーのオペラ「カルメン」を演奏会形式で上演。歌手陣はカルメンにマリーナ・コンパラート、ドン・ホセにキム・アルフレード、エスカミーリョにチェ・ビョンヒョク、ミカエラにアンドレア・キャロル他。合唱は新国立劇場合唱団と杉並児童合唱団。休憩は第2幕の後に1回。統率のとれたアンサンブルによる演奏会形式ならではの「カルメン」。チョン・ミョンフンと東フィルの気迫がすごい。軽快さやしゃれっ気よりも、重厚さとパッションが前面に出た「カルメン」。筆圧の強い音楽で、ヴェルディやワーグナーすら連想する。歌手陣ではミカエラのアンドレア・キャロルが聴きごたえあり。ミカエラといえば常々言うようにオペラ界の三大嫌な女のひとりなのだが、このミカエラは応援したくなる。脇役も含め全般に声量が豊かで、ホセもエスカミーリョもパワフル。
●演奏会形式とはいえ、舞台に残されたわずかなスペースのなかで、カルメン役のマリーナ・コンパラートを中心に精一杯の演技も披露してくれた。しばしばオペラでは物語的に肝心なシーン(殺人とか)に歌がないので、演技がないと「あれ?今なにがあったの?」となりがちなんだけど、終幕ではドン・ホセがカルメンにズブリとやって、カルメンが倒れるシーンまで見せた。
●カルメンって、二言目には「私は自由な女」って言うじゃないすか。あれって、逆説なんすよね。カルメンは1ミリも自由じゃない。自由な女はタバコ工場で働いて、女工同士でケンカなんかしない。放浪の民として、社会の目につかないところで悪事に手を染めながら、やっとのことで生きている。密輸団の仕事だって、ボスに言われてやっているのであって、カルメンが首謀者ではない。あっちに行けと言われれば行くしかないし、これをやれと言われればやるしかない。いいように使われている。タバコ工場の仕事だって、きっとピンハネされている。ほかに選択肢がないという意味で、カルメンは束縛された女。カード占いの結果すら覆せない。むしろミカエラのほうがよほど自由。田舎から幼なじみを追いかけて街に出てくるのも、密輸団のアジトに乗り込むのも、ぜんぶ自由意思でやっている。「あー、やっぱりホセって、めんどくさい男だな」と少しでも思ったら、密輸団なんか探さないで、そのまま田舎で暮らせる。終幕の修羅場の頃には、モラレスに乗り換えてるかも。

このブログ記事について

ひとつ前の記事は「ラ・フォル・ジュルネTOKYO 2020 記者会見」です。

次の記事は「AIに文字起こしを任せたい 2020年2月現在」です。

最新のコンテンツはインデックスページへ。過去に書かれた記事はアーカイブのページへ。