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February 25, 2020

ヴェルディ「ラ・トラヴィアータ」(椿姫) 東京芸術劇場シアターオペラvol.13

●22日は東京芸術劇場でヴェルディ「ラ・トラヴィアータ」(椿姫)。毎回、演出家の人選が話題を呼ぶ東京芸術劇場シアターオペラvol.13/全国共同制作オペラ。今回は矢内原美邦の演出と振付。ヴィオレッタは当初予定のエヴァ・メイからエカテリーナ・バカノヴァに変更(新型コロナウイルス問題よりもっと前に発表済、念のため)、アルフレードに宮里直樹、ジェルモンに三浦克次、ヘンリク・シェーファー指揮読響、新国立劇場合唱団。歌手陣に加えて俳優・ダンサーが5名加わる。
●映像の活用、場所を特定しない舞台設定(時代は現代)などは事前の記者会見でもあった通り。「椿姫」について、音楽はともかく、ストーリーはしんどいなと思う自分としては、大胆な演出は大歓迎。くりかえし上演される名作オペラには、パイプ椅子を持って暴れるプロレスの場外乱闘を観たいとすら思っている。が、自分にはこの演出を理解するためのなにかが決定的に足りない。ステージ上では次々と小イベントが起きるのだが(基本的に孤独感を募らせる暗鬱としたイベント)、作品内容との関連性がわからない。映像で映し出される山羊とか無関係な人物とかはシンボリックな意味合いだけなんだろうか。
●第1幕や第2幕のパーティ場面でゲストたちがスマホを使うんだけど、スマホを使うのなら使うでスマホ前提で一貫してほしかった。使いの者がアルフレードに手紙を渡す場面で、紙の手紙を渡してるのにアルフレードがスマホでメッセージを受け取るのは奇妙。どうしてもスマホで受け取るなら、使いの者はメッセンジャー・アプリ上のキャラクターとして映像で登場するみたいにして、筋を通してほしい。第2幕冒頭ではステージの端でヴィオレッタが退屈そうにテレビゲームをしている。画面に映っているのはもっとも原始的なビデオゲーム。左右にある棒状のラケットを上下に動かしてボールを跳ね返すテニス・ゲー。なぜスマホがある時代に、こんな太古のゲームが存在するんだろう。ともあれ、これは愛のためにパリを離れたものの、ヴィオレッタはあっという間に寂れた田舎の退屈さに愛想をつかした、という表現だと思うじゃないすか。ああ、これはカルメンとドン・ホセみたいに、実はもう愛が冷めているという設定で話が進むのかなと予感する。でも、そういうことではぜんぜんなかった。
●第3幕、歌手もダンサーも黒装束で列をなして、なにかを両手で持って、中央奥から手前にまっすぐゆっくりと歩く。病床のヴィオレッタをほったらかしで歩く。なにを持っているのか、2階席からはよく見えない。位牌かな? それとも砂時計? 2千席の劇場で使う小道具としてあれはどうなんだろう。そして、最後に死んだはずのヴィオレッタがすくっと立ち上がってスポットライトを浴びる。もしかして生き返った? ゾンビになってアルフレッドをガブッ!……なわけない。でもどうして立つのか。やっぱり死んでないのかな。みんなの心のなかでは生きているってこと?
●歌手陣ではエカテリーナ・バカノヴァが好演。宮里直樹は声量豊か。カーテンコールでは演出家にブーがそこそこ出た。もっと激しいブーイングなら演出家の勲章になったかもしれないけど、そこまでには至らず。