●どう考えても自分には縁がなさそうなテーマなのに、読んでみるとまさかと思うほどおもしろい、「ハーレクイン・ロマンス 恋愛小説から読むアメリカ」(尾崎俊介著/平凡社新書)。ハーレクイン・ロマンスといえば、ロマンス小説の代名詞。どこにでもいる普通の女性がお金持ちの御曹司のイケメンと恋に落ち、障害を乗り越えてめでたく結婚するといったワンパターン小説のこと……といったように、一冊も読んだことのない(読むはずがない)男性でも漠然としたイメージを抱いていると思う。そんなハーレクイン・ロマンスがどうやって始まり、どんなふうに出版界を席巻したかという話がつづられているのだが、これが驚きの連続。ビジネスのサクセス・ストーリーとしても、一種の出版史としても読みごたえがある。そもそもハーレクイン・ロマンスの出版元がカナダだということも知らなかったし、もともとはなりゆきでイギリスの出版社から恋愛小説の版権を買って、カナダでペーパーバック化していたのだという話も初耳。
●読者はハラハラドキドキする先の見えない展開を望んでいないので、必ず一定のパターンをたどってハッピーエンドに落ち着くという「品質管理」を小説に持ち込んだという話には目からウロコ。どれも同じ話だから読者は飽きて買わなくなるのではなく、どれも同じだから読者は安心して新刊を買えるというのだ。実のところ、これは男性も同じで、毎回一定のパターンが約束されていて、願望を満たしてくれるという点では「ヒーロー戦隊もの」から「水戸黄門」まで、なんら変わりがない。ただ、ハーレクイン・ロマンスの成功ぶりは尋常ではなく、1980年には約1億9千万部を売り、大手書店チェーンにおけるペーパーバック販売の約3割をハーレクイン・ロマンスが占めていたというから、想像を絶する。
●19世紀イギリスの貸本屋事情も興味深い。当時、本は買うよりも、年会費を払って借りるものだったというのだが、そう考えると今どきのサブスクリプション・モデルは先祖返りなのかも。
March 11, 2020