●ゾンビ映画の基本的な作法として、潜伏期間の明示があると思う。たとえばブラッド・ピットが主演した映画「ワールド・ウォーZ」では、近年の流行に従って全力疾走するゾンビが描かれていたが、映画としてのスピード感を重要視するあまり、潜伏期間がわずか12秒に設定されていた。噛まれたらあっという間にゾンビ。なるほど、視覚的なインパクトは抜群だ。しかし、この設定はいただけない。潜伏期間が長いから感染が広がるのであって、12秒で人がゾンビになってしまっては、そんなものが世界的に流行するはずがないではないか。
●というのも、ゾンビになってしまってはクルマも運転できなくなるし、電車にも乗れなくなる。ましてや飛行機で外国に行くことなんてできない。もし潜伏期間が十分に長ければ、噛まれた者が無自覚なまま出張や旅行に出かけて、旅先でゾンビ化することでゾンビ禍が広がってゆく。しかし感染から12秒でゾンビになってしまっては、外国どころか、箱根の山すら越えられない。日本の国土の75%は森林である。感染は人口過疎地域で終息してしまう。つまり、潜伏期間の長さは射程の長さを意味している。
●昨日3月11日を迎え、東京の風景はいろんな点で9年前と酷似していると感じる。演奏会はほとんど中止、がらがらで人通りの少ない新宿、空っぽの商店の棚(今回は主にトイレットペーパーとマスクだが)、自粛と同調圧力、SNSで罵詈雑言を浴びる学者・専門家たち。そして、人は聞きたい話しか聞かない。自分も含めて。
March 12, 2020
ゾンビとわたし その41:潜伏期間について
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