March 13, 2020

アンドラーシュ・シフのピアノ・リサイタル

●12日は東京オペラシティでアンドラーシュ・シフのピアノ・リサイタル。新型コロナウィルスの影響で公演中止が相次ぐ中、主催のKAJIMOTOは感染症に詳しい医師の指導のもと、対策を立てたうえで公演を決行してくれた。基本的には手を介した接触感染を抑止するという方針で、たとえば、チケットは係員に渡さずに見せるだけ(半券は切らない)、プログラムもチラシも渡さない(プログラムはネットで)、バーコーナーもクロークも中止、CD販売もサイン会もなし。アルコール消毒液の用意、場内の換気を十分する、体調に懸念がある人には払い戻しを受け付ける等。
●客入りは満席まではいかなくても上々。開演前の客席が固唾をのんで今か今かとシフの登場を待っている様子が伝わってきた。シフが姿を見せると、鋭く熱い拍手がわき起こる。ようやく演奏会を聴くことができるという喜び。しかし、始まってみるとシフはリラックスした様子で淡々とした円熟の音楽を奏でる。日頃の演奏会とは逆だが、非日常の中に日常を垣間見せてくれたかのような感。プログラムは今回も小曲、小品を集めたものだったので、なおさら。メンデルスゾーンの幻想曲「スコットランド・ソナタ」、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第24番「テレーゼ」、ブラームスの「8つのピアノ小品」op76、同じく「7つの幻想曲集」op116、バッハのイギリス組曲第6番ニ短調。家庭音楽的というと言い過ぎかもしれないが、大ホールとは思えないくらい親密な空気が聴衆との間に醸成されていたと思う。白眉はバッハ。気負いがなく、しなやか。ピアノはベーゼンドルファー。
●そして真骨頂は「第3部」とも呼ぶべきアンコール祭り。まずはバッハの「イタリア協奏曲」で開始。第1楽章が終わったところで拍手があって「ん、全曲弾くのでは」と思ったが、期待通り、続けて第2楽章と第3楽章も弾いてくれた。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第12番「葬送」第1楽章、メンデルスゾーンの無言歌「甘い思い出」と「紡ぎ歌」、ブラームスの間奏曲op118-2、シューベルトの「ハンガリー風のメロディ」。イタリア協奏曲の第2楽章とかブラームスの118-2みたいな遅く演奏されがちの曲でも、シフのテンポ設定はけっこう速め。老巨匠風の思わせぶりなところがない。終演はかなり遅くなったが、最後は場内ほとんど総立ちで拍手。19日にも同ホールで別プログラムの公演あり。

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