●音楽界から演奏会が消え去ったように、サッカー界からも試合がなくなった。しょうがないので本を読む。「サッカー・J2論」 (松井大輔著/ワニブックスPLUS新書) 。元日本代表で、38歳となった現在もJ2の横浜FCで現役を続ける松井大輔によるJ2論。というよりは、2部リーグ論といったほうがいいかもしれない。なにしろ松井は日本でのJ2経験だけではなく、ヨーロッパでの2部リーグ経験も豊富。彼の全盛期は欧州に移って最初のクラブ、ル・マン時代だと思うが、移籍当時のル・マンは2部リーグのクラブだった。ここで中心選手として活躍して1部リーグ昇格を果たした。その後はサンテティエンヌ、グルノーブルと移籍して、グルノーブルでも2部リーグを経験。ポーランド2部のオドラ・オポーレでもプレイしている。ワールドカップ・レベルの選手でこれだけあちこちで2部リーグを経験している選手はなかなかいないのでは。
●プレーヤー視点で見たJ1とJ2の違いは、われわれファンの感じ方と変わらない。J1ではきれいなパス回しからのゴールが好まれるのに対し、「J2は混戦から偶発性の高いゴールが生まれる傾向にある」「J2時代はロングボール中心の戦術で勝てても、J1になった瞬間にその戦術が通用しなくなるというケースは多い」。これはJFLになるともっと顕著で、中盤を省略してボールを前線に運ぶ利点はかなり大きい。それゆえにボールをつないで「きれいなゴール」が生まれたときの感動も大きいのだが。
●選手でなければわからないのはロッカールームや練習の光景。欧州の2部リーグでは「チームメイトとの会話も、だいたいがお金の話だ。移籍金はいくらなのか、年俸はどれだけ上がるのか。サッカーの理想について語る選手はいなかったと思う」。このあたりは日本とはずいぶん雰囲気が違いそう。練習も「選手たちはグラウンドで毎日のようにケンカしている。とにかくコンタクトプレーが多くて、手加減せずにぶつかり合う。だからヒートアップするのは必然で、すぐに胸ぐらを掴み合っての乱闘騒ぎが始まる。 そんな集団のなかに突然紛れ込んだ僕はひとたまりもない」。海外組の選手たちはそんな荒っぽい大男たちを相手にポジションを獲得しているわけで、改めて尊敬の念がわいてくる。
●現時点で欧州リーグ再開のめどはついていないが、無観客試合での開催が基本線となっている模様。サッカーでは観客席の密集や発声が避けられない一方で、放映権がビジネスの柱になっていることを考えれば、そういう話にはなると思う。しかし2部リーグ以下はどうなるんだろう。そして、Jリーグもおそらく無観客試合の方向に向かうのでは。2022年のワールドカップの開催地がカタールに決まったとき、中東ではスタジアムがガラガラでみんなテレビでしかサッカーを見ていないと揶揄されたものだが、なんとも予言的な選択をしたものだ。当分、サッカーは全世界的にテレビ(ネット)で見るものになる。
April 16, 2020