●ワーナーミュージックのサイトでクラシックのニューリリースを眺めると、大半は配信限定のアルバム(主に旧譜)が並んでいて、一部にCD輸入盤があって、ごく一部にCD国内盤があるという状況なのだが、そんな中でセルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルのベルリオーズ「幻想交響曲」が堂々の国内盤発売。どれだけ人気があるのか、チェリビダッケ。1986年6月、ミュンヘンでのライブ音源(BR KLASSIK)。ということは、自分が来日公演で初めてこのコンビを実演で聴いた年と同じ。その来日公演は当時の自分に「オーケストラからこんな音が出るのか」という、すさまじい衝撃をもたらした(特に弱音の表現)。ということもあって、演目は違うが同窓会的な気分で「幻想交響曲」を聴く。録音で聴いても弦楽器の澄んだ音色は尋常ではない。テンポはやはり遅くて、特に第3楽章「野の風景」は20分を超える。ほとんどブルックナー的な恍惚に浸れる。第5楽章「魔女の夜宴の夢」冒頭も、テンポが遅くて不気味で、なんだかお化けが出そうな演奏だな……と思ったが、これは本当にお化けが出てくる音楽だった。
●録音芸術を否定し、生演奏(およびその放送音源)でしか聴けない「幻の指揮者」だったチェリビダッケが、没後に大量の音源が発掘されて豊富なディスコグラフィを誇る指揮者になったのは皮肉だが、2020年になった今、ウィルス禍で世界中のオーケストラが活動を停止するなかでいまだ新譜コーナーに録音が登場するこの状況をどうとらえればいいのだろう。もちろんCDだけではなく、Spotifyでも聴ける。いちばん人気の第4楽章は本日時点で早くも2万6千回を超える再生数を誇る。あんなに録音を嫌っていた指揮者の音楽が、圧縮音源で未来まで聴き継がれていることに感動を覚えずにはいられない。
June 10, 2020