●14日昼はサントリーホール CMG オンライン「エラールの午后」(無観客・有料配信)。室内楽の祭典「チェンバーミュージック・ガーデン」のオンライン版として、ブルーローズ(小ホール)で5日間7公演が開催中。シリーズの一公演、「エラールの午后」を聴いた。出演者は川口成彦(ピアノ)、原田陽(ヴァイオリン)、新倉瞳(チェロ)。動画配信とはいえ、久々にコンサートを聴けたという大きな手ごたえあり。
●動画配信はチケットぴあのサービス PIA LIVE STREAM を利用したもので、プラットフォームはULIZA。見逃し配信はなくライブのみ。動画のビットレートは3000kbps。映像、音声ともにクォリティは十分で、なにひとつ問題なく音楽を味わうことができる。CDや各種音声ストリーミング・サービスを聴くのとまったく同じで、ある意味で生よりも生々しいというか、目の前で鳴っている感があるというか、近接感があって空気感がないオーディオ装置を通した音楽の楽しみ方になる。スピーカーで鳴らしてもよかったんだけど、没入度を得るために部屋を暗くしてヘッドフォンを使用。
●川口成彦さんのピアノは1867年製、サントリーホール所蔵のエラール。ショパンのピアノ三重奏曲の第1楽章で始まって、トークを交えながらグラナドスの「スペイン舞曲集」より第5曲「アンダルーサ」、シューマン~リスト編の「献呈」、サン=サーンスの「白鳥」他の小品が並び、最後はドビュッシーのピアノ三重奏曲で終わるというプログラム。ピアノに合わせて、弦はガット弦、チェロはエンドピンなし、ピッチはA=430Hzに設定したそう。実際には観客が回線の向こう側にいるのにその場にはだれもいないし拍手も起きないということで、やりにくさもあったはずだが、最初のショパンから緊張感も熱気も伝わってきて、しっかりと「本番」の雰囲気になっていった。ピアノは音域ごとの音色の違いがどの作品でも効果的で、特に高音域の軽快なきらびやかさはモダンピアノとはまったく異質のもの。この楽器であれば、ピアノ、ヴァイオリン、チェロの三重奏で音がひとつに融合することに納得。
●ライブ配信と実際の演奏会の最大の違いは、自分が客席のひとりとして参加していないということに尽きる。いかなる意味でもその場の空気を醸成しない。これはサッカー中継と同様。配信だから楽しめる要素もたくさんあるので(コーヒーを飲みながらリラックスして聴けるし、静かにしなければいけないプレッシャーもない)、もし客席に普通に人が入っていたとしても、配信には配信ならではの価値があると実感する。
June 15, 2020