●先日書いたように、PCのキーボードを買い替えた。平凡かつ機能的なキーボード(TK-FCM064WH/RS)で、打ちやすさに関してはとても気に入っているのだが、ひとつだけ惜しいのはスリープボタンがないこと。というか、今はたいていのキーボードにスリープボタンがない。どうもスリープボタンは世間的には歓迎されていない模様。じゃあ、その日の仕事を終えた際、どうやってWindowsをスリープにするのか。マウスでスタート→電源アイコン→スリープとクリックする? あるいは同じことをキーボードでする? うーん……。ワタシはキーボード一発でスリープにしたい。
●そこで、キーボードから一発でスリープにする方法を調べてみたんだけど、思ったほどお手軽にはいかないっぽい。検索すると rundll32のショートカットを作ってスリープさせる方法がたくさん見つかるのだが、これだとタスクスケジューラーによる自動復帰でつまずくなど、多少問題があるようだ。そこで、たどり着いたのが、Micorsoft自身が提供しているPsShutdownというツールを使う方法。こちらの記事の後半を参考にした。psshutdown.exeのショートカットをデスクトップ(あるいはC:\ProgramData\Microsoft\Windows\Start Menu\Programs)などに作っておいて、リンク先のパラメータを psshutdown.exe -d -t 0 と設定する。で、これになにかショートカットキーを割り当てればいい。どれを当てはめるか悩んだが、押しやすさで Ctrl+F12 に割り当てた。これでキー一発でスリープになる。快適。
●でも、やっぱりキーボードにスリープボタンが付いてるほうがよくない?
2020年7月アーカイブ
キーボードにスリープボタンを設定する
札幌vsマリノス J1リーグ第7節
●東京はずっと雨と曇りの日が続いている。映画「天気の子」を地で行く展開。梅雨入りは6月11日だったが、梅雨明けは8月に入ってからになりそう。今日も最高気温は26度ほどの予想。延々と35度超の日が続く猛暑が恋しい……わけないか。
●で、気温の低さに負けず劣らずマリノスも低調だ。ここまで7試合で2勝4敗1分。連覇どころの話ではない。特に前節の札幌戦は、お互いに攻撃的なパスサッカーを志したうえで負けたのだから痛かった。札幌 3-1 マリノス。マリノスは守備のミスが多すぎる。もっともここまでの不調は不思議でもなんでもなく、昨季優勝の陰の立役者とでもいうべきチアゴ・マルチンスがいない。マルコス・ジュニオールらブラジル人勢のコンディションも気になる。ポステコグルー体制はクレイジーな戦術から始まって、ついに優勝まで上り詰めてしまったわけだが、この戦術を実現する核心は個の能力にあると思っている。
●ところでマリノスのポステコグルー監督の右腕だったピーター・クラモフスキーが今季からエスパルスの監督に抜擢されている。クラモフスキーにとって、クラブの監督を務めるのはこれが初めて。ポステコグルーと同じ哲学を共有していると思われるが、やはりマリノス同様、最初は失点の多さに苦労しているよう。7戦目にして今季初勝利。1勝5敗1分で最下位に沈んでいるが、ウィルス禍にある今季は特別ルールで降格がない。残留争いを気にせずにチームを一から組み立てられる稀有な状況にある。
新宿御苑 2020 疎
●新宿御苑に来てみた。もしウィルス禍がなければ、6月27日にここでドゥダメル指揮ベルリン・フィルによる「1万人の野外コンサート」が開かれていた。「東京・春・音楽祭特別公演 ベルリン・フィル in Tokyo 2020」の一環として予定された公演で、曲はベートーヴェンの「第九」。無料ということもあり、新宿御苑が人で埋め尽くされていたにちがいない。しかし現実の2020年では、ベルリン・フィルは来なかったし、オリンピックも開かれなかったし、「第九」も歌えるのかどうかはっきりしないし、人が密になることもできない。
●梅雨が長引く東京だが、おかげで7月とは思えない涼しさ。もともと平日の新宿御苑は外国人観光客だらけで、日本人のほうが少数派だった。じゃあ今はどうなっているのかというと、もう見たことがないほどガラガラ。都心にこんなにも広大な「疎」があるなんて。ふだんなら決して撮れないひとけのない写真。これほど手の掛けられた美しく広々とした場所を、わずかな人数で占有するというのは圧倒的なぜいたくだ。普段なら「母と子の森」や「大温室」がお気に入りだが、今のように人がいないと「日本庭園」のあたりも格段に楽しめる。ベルリン・フィルが演奏する予定だったのは「風景式庭園」。ここで脳内ベートーヴェンを再生して、ベルリン・フィルの幻影に思いを馳せることも可。
●年間パスポートの有効期限は閉園期間に相当する67日間分が延長される。猛暑がやってきたら楽しい場所ではなくなるので、行くなら今。小雨なら濡れるのも吉。
音楽プレイヤーソフト MusicBee を導入
●Windows 10の規定の音楽プレイヤーといえばGrooveミュージックだが、どうにもこのアプリに満足できなくなり、新たにMusicBeeを導入することにした。これはいい。以前から評判は目にしていたが、もっと早く導入しておけばよかった。音楽プレーヤーでもあり、音楽ライブラリ管理アプリでもあり、リッピングアプリでもある。非常に高機能で設定項目が多く、しかも外見のカスタマイズの自由度が激しく高い。一見、過剰だと感じるのだが、自分に必要な機能だけ使えばいいと割り切る。デフォルトのインターフェイスはゴチャゴチャしているが、シンプルで落ち着いた雰囲気にしたいので、上記スクリーンショットのように設定してみた。動作は軽快。無料。
●Windows 10にGrooveミュージックが導入された際、当初は機能が少なくてもバージョンアップするごとに拡充されていくのでは、という期待があった。が、2020年になった今、むしろGrooveミュージックは忘れられたアプリになりつつある。まあ、それもわからなくはない。ストリーミング配信全盛の今、音楽プレーヤーといえば、Spotifyをはじめとする配信アプリが主役。普通の人はローカルに音楽データをため込んでいたりはしない。だったら、なにもOS側でプレーヤーを用意してあげる必要はないのかも。Windows Media PlayerにあったCDのリッピング機能が、いつになってもGrooveミュージックに付かないのは、もはや需要がないからなんだろう。
●が、ワタシはそれじゃ困るんである。今でもCDからリッピングする機会はある。そんなときはいにしえのWindows Media Playerを起動してリッピングしていた。でも今後はリッピングもローカルデータの再生もMusicBeeに一本化できる。あと、MusicBeeでいいなと思ったのは、音楽ファイルのタグの編集が容易なところ。もともとクラシックの音源はタグ付けがカオスになりがち。たとえば作曲者名のタグにAntonio Vivaldiと入るべきなのに空欄になっているアルバムが3タイトルあったとする。そういうときに3タイトルを同時選択して、一括して作曲者名をAntonio Vivaldiに設定できる。えっ、タグの編集みたいな面倒なことを、わざわざしない? うん、しない。しないけど、たまに無性にしたくなる。
●ほかにもCDからのリッピングをAccurateRipを使って高精度にするとか、いろんな機能がある。通常のデスクトップアプリ版とストアアプリ版があるが、管理が楽そうなので後者を選んだ。
映画「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」
●謎の4連休が終わった。7月に4連休なんてあったっけ?と思うが、どうやら東京五輪に向けて今年限りで祝日を移動させたっぽい。国は「GoToキャンペーン」なる旅行促進策を打ち出す一方、東京は感染拡大が止まらず都知事が4連休の外出自粛を要請するというちぐはぐな状況。日本医師会いわく「我慢の4連休」。しかし、街の空気はもう緩んでいて、緊急事態宣言直前のような緊迫感を取り戻すのは難しそうに見えるだが。幻の五輪、GoTo、自粛のパラレルワールド。
●で、そんな状況にふさわしく、自主監禁もの映画ともいうべき「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」をAmazonで観る。今年公開されたフランス産ミステリー。人里離れた豪邸に9人の翻訳家たちが集められる。ベストセラーとなっているミステリー小説「デダリュス」の完結編を世界同時発売するために9人の翻訳家が集められているんだけど、出版社のクレイジーな社長が外部流出を恐れて、翻訳家たちと外部の接触を一切絶つ。まさに缶詰仕事。念入りなことに、翻訳家たちにも1日20ページずつしか原稿を渡さない(そりゃないよと思うけど)。ところが出版社社長のもとに、「冒頭10ページを流出させた。大金を払わなければ全ページを流出させる」という脅迫メールが届く……。
●つまり、これって古典的な密室トリックものなんだけど、それが洗練された形で今風に仕上がっていて、とてもよくできている。そして、映画内に登場する架空の傑作小説「デダリュス」が読みたくなる(イメージとしてはエーコの「薔薇の名前」みたいな位置づけか)。9人の翻訳家、一昔前ならアジア代表として日本語が入っていただろうけど、今はやっぱり中国語。まあ、そうなるか。あと、社長が「翻訳者の名前なんて表紙にも載らないじゃないか」みたいなセリフを発していて驚く。日本語翻訳家のイメージに比べると、ずいぶん翻訳家の地位が低いと感じる。欧州言語間の翻訳だと言語間のハードルが低いがゆえに軽く扱われがちということなのか、それともこの映画内だけの話なのか。
ナントの大聖堂と音楽祭の記憶
●フランスのナントの大聖堂で火災があった。400年の歴史を持つパイプオルガンは全焼。報道によれば3か所から出火しているため放火の疑いがあるという。この大聖堂には以前、ナントのラ・フォル・ジュルネを取材した際に訪れたことがあるはず。そう思ってPC内の写真を探すが見つからない。おかしいな、少なくとも最初にナントを訪れた際には、中に入って写真を撮ったが……はっ。そうだ、その時の写真は紙焼きで見た記憶がある。ということは、まだデジタルではなくフィルムで撮っていたのか? 道理で写真が見つからないわけだ。
●写真を探すついでに、ナントの音楽祭の光景を眺める。至るどころ密だらけで圧倒される。ひたすら密。そもそもお祭りはどこの世界でも密に決まっている。こういったお祭りが来年には可能になるかもしれないし、十年後でも不可能なのかもしれない、というのが現時点での自分の認識。ウィルス自体が早期に弱毒化してくれるかもしれないし、有効で安全なワクチンは結局見つからないかもしれない。決定的な治療薬が見つかるかもしれないし、第2、第3の新型ウィルスが蔓延するかもしれない。予測や仮説はふんだんにあるが、答えを知っている人はいないはず。
●恒例、ourworldindata.orgの国別新規感染者数の7日間移動平均の対数グラフ。現状では日本もイタリアもドイツもオーストラリアも似たり寄ったり。一時期は桁違いだったのに、ロックダウンを解除して時間が経つと、先進国の間では似たような水準になってくるのかも(ただしアメリカはまったく別の道を進んでいる)。同程度の水準であれば、相互に入国制限の解除ができるのではないかと期待してしまう。日欧間の音楽家の往来がそろそろ可能になってくれないものだろうか。なお、東京都だけの各種データはこちら。ここに対数グラフはないのだが、同じデータを用いて新規感染者数を縦軸対数でプロットすると5月末からほぼ直線的に(つまりねずみ算式に)増えている(参照)。現象に一貫性がある。
内蔵SSDを外付けSSDとして再利用する
●「世の中、こういうものがあったら便利なんじゃないか?」と思ったら、たいてい検索してみるとそういうものはすでにある。先日、デスクトップPCを買い替えた際に、古いPCに内蔵してある2.5インチのSSDをどうしたものかと悩んだ。このマシンにはメインとサブのそれぞれ256GBのSSDを積んであった(サブのほうは先々代から引き継いでいる)。廃棄するのはもったいない。かといって新しいマシンにはM.2 SSDなど最新高速モデルを使いたい。コンビニにエコバッグを持ってでかける昨今、こういう古いSSDは外付けSSDとして再利用できないものなんすかねー、と思ったら、まさしくその用途のためのケースが売っていた!
●同様のものを何社か出しているようだが、自分が買ったのはロジテックのHDD/SSDケース LGB-PBSU3。やることは超簡単。古いPCから引っこ抜いてきたSSDをこのケースに入れてバチン!と蓋をしたら、はい、もうできあがり。なんというお手軽さ。USB接続の外付けSSDとして即座に使える。しかも安価。2つ購入して、外付けSSDドライブが2個もできた。快適に動作する。これがあるんだったら、新しいマシンのSSDの容量をそんなにがんばらなくてもよかったのかなと思わなくもない。
●あと、PCはドライブさえ引っこ抜いてしまえば、なにも気にせずに廃棄できるのが吉。ドライブを再利用してもいいし、後日ゼロライトしてから捨ててもいいし、なんなら物理破壊する手もあり。
ニコニコ生放送でノット映像出演の東京交響楽団
●ニコニコ生放送で18日(土)に配信された「東京交響楽団 東京オペラシティシリーズ 第116回 Live from Tokyo Opera City ! ニコ響」が、1週間オンデマンドで再生できるようになっている。これは来日できないジョナサン・ノットがドヴォルザークの交響曲第8番をリモート指揮(?)して話題になった演奏会。見逃した方はどうぞ。
●当日のプログラムはブリテンの「フランク・ブリッジの主題による変奏曲」とドヴォルザークの交響曲第8番で、ブリテンは指揮者なしでの演奏。生放送で見たが、後半になるとオーケストラの前に(そして客席側にも)大型モニターが置かれ、映像でジョナサン・ノットが指揮をする。といっても、これはリアルタイムの指揮ではなく、なんと、事前収録された映像。当初はリアルタイムで指揮する可能性を探っていたようだが、ネットワーク経由ではタイムラグが大きすぎて不可能。そこで、リハーサル段階でノットの意図をオーケストラに十全に反映させたうえで、本番では収録映像でノットが登場することになったという。その経緯は東響サイトの「事務局長が語る 音楽監督ジョナサン・ノットとの4ヶ月」に記されていて必読。ノットの進取の気性が伝わってくる。もちろん、事前収録なのだから、映像そのものは本質的に指揮とは言えない。オーケストラ側になにが起きても、映像のなかのノットは一切反応できないのだから。が、それは承知の上のチャレンジ。コンサートマスターの水谷さんは「音楽的なリハーサルはやるけれど、映像に合わせるリハーサルはやりません」と明言して臨んだという。
●そして、本番で生まれたのがこの演奏。どうだろう、たしかに確固たるパーソナリティに支えられたドヴォルザークが聞こえてこないだろうか。音楽として十分以上に成立している。もっともこれは数多くの共演を重ね、なおかつ過去に同曲を演奏してるこのコンビだから可能なことなんだろう。もしオーケストラと映像が大きくずれていったらどうするのかと思ったが、不思議なくらいに映像と音が同期している。ノットはそこにいるのかいないのか、という禅問答みたいな問いが思い浮かぶ。演奏を聴くと、そこにいる。でも逆説的だけどノットの映像を目にすると、ノットはいない。空想のオーケストラを相手に本番同様のテンションを保ちながら棒を振るのは相当にタフなことにちがいない。演奏が終わった後、映像がライブに切り替わって、スイスにいるノットが登場し、満面の笑みでオーケストラの健闘を称えた。ノットはずっとオンラインで聴いていたのか! そう知ると、がぜん事前映像の姿にも重みが感じられてくる。不在と存在の境界がどこにあるのか、試されているかのよう。
PC用のキーボードを買い替える
●PC用のキーボードを買い替えた。実はほんの2年前に買い替えたばかりだったのだが、CapsLockキーがうまく戻らなくなってしまったのだ。というのも、自分は「CapsLockをCtrlキーと入れ替える族」の人間なので、日本語入力中はショートカットキーのために常にこのキーを押しまくっている。カーソルを上下左右に移動するのも、コピーもペーストも、リターンもスクロールも、全部このキーを押す(たとえば日本語変換の確定はリターンキーではなくCtrl+Mを使う。そのほうが楽だから)。あまりに叩かれる頻度が高くて、CapsLockキー(実質Ctrlキー)がヘタってしまうのは、まあ、わかる。わかるんだけど、2年はいくらなんでも耐久性が低い。その前のノーブランドの500円くらいのキーボードははるかに長持ちしていたのに……。
●で、これはタッチが軽くてストロークの浅いシャレた薄型キーボードを選んだのがよくなかったんじゃないか。そう反省して、次はまた従来型の深いストロークのキーボードを買うことに決めた。軽くて浅いとタイプが楽な反面、ミスタッチを誘発しやすい(ような気がする)。だから、ストロークのしっかりした昔ながらの味気ないほど武骨なキーボードに戻そう。大量生産で安くて、でも頑丈そうな標準キーボード。どこかのキーが省略されたり小さくなったり、変な場所に押し込まれているような省スペースタイプはNGだ(こういうタイプがびっくりするほど多い)。そう考えて、あれこれ探したのだが、今のキーボードは圧倒的に黒が主流なんすよね。ワタシは白系でなきゃ使いたくない。そうなると選択肢は本当に少なくて、調べに調べまくった結果、たった一種類に絞られた。それが、エレコムのTK-FCM064WH/RS。なんのことはない、どこにでも売ってる普通のキーボード。ホントにすべてが普通。
●使い心地は今のところ最高だ。静音型ではなく、叩けば叩いただけ音が出るのも好ましい。「カチャカチャカチャカチャ」というよりは「カシュカシュカシュカシュ」というタイプの心地よい打鍵音。叩いているといつまでも叩いていたくなるような快感がある(←自己暗示が効きすぎ)。唯一、購入前に気になったのは、NumLockキーのインジケーターが赤く光るという点で、赤は目立ちすぎておかしいだろうと思っていたのだが、実物は柔らかいタイプの光でぜんぜん気にならない。あとは耐久性が問題。「1000万回高耐久」と謳われているのを信じるしか。さっそく、CapsLockキーは毎日ものすごい回数、打たれまくっている、左手の小指でなんどもなんども、ずっと執拗に。
サントリーホールで佐渡裕指揮東京フィル
●15日はサントリーホールで東京フィルの7月定期演奏会。指揮は佐渡裕。再開後にサントリーホールにやってくるのは初めて。かつてあんなに頻繁に足を運んでいた場所だというのに、ここに来るのは5か月ぶり。六本木一丁目の駅からして懐かしすぎる。
●定期演奏会ではあるがプログラムは変更されて、ベートーヴェンの序曲「コリオラン」と交響曲第7番のみ。今回もまた休憩なしの1時間プログラム。客席は一席ずつ空けて半分のみ使用。入り口でサーモグラフィで体温チェック、入場券は見せるだけ、名前と連絡先をあらかじめ書いておいて帰りに箱に入れる方式。密を避けるために分散しての入退場。客席はマスク着用。楽章間入場可、退場はいつでも可。プログラムノートは自分で取る。チラシ配布もなし、当然サイン会もなし。ホールの中よりも、そこに来るまでの電車のほうがはるかに密で、比較にならないほど無防備だ。
●今年は生誕250年のベートーヴェン・イヤーであるが、そうでなくとも音楽界の再開にあたって、ポジティブで力強いベートーヴェンの音楽はふさわしい。一時期は作品が消耗するかと思われるほど頻繁に演奏された交響曲第7番も、今なら新鮮な気持ちで聴くことができる。実際、オーケストラからはフレッシュで覇気にあふれたサウンドが鳴り響く。造形は重厚で伝統的。いくぶん前のめり気味の推進力。再開後の公演では毎度毎度だが、サントリーホールでもやはり残響が普段以上に豊かに聞こえる。客席が半分以下しか使われていないからなのか。最初にオーケストラのメンバーが入場したときから拍手がわき、最後に全員が退場するまで拍手が続く。自分が足を運んだ再開後の公演ではいつもそう。ブラボーの発声に代わる賛辞の新様式なのか。
●予定通りに終演し、20時頃にホールを出たと思うが、昨今の状況ではそれでもずいぶん夜が遅くなったように感じてしまう。今後、感染状況が落ち着いて、従来通りの公演が開けるようになったとして、はたして21時終演のペースに戻れるのだろうか。帰路、盛り場的な場所を通り抜けた際、ガールズバーの前に若くてスリムなおねえさんたちが立っていた。厚底のサンダル、金色の髪、Tシャツとショートパンツで、だるそうにスマホをいじっている。従来通りの夜の光景。
FAX配信サービス提供終了のお知らせ
●ついにBIGLOBEのFAX配信サービスが終了することになってしまった。実はこの数年、FAXはすべてこの有料サービスを使って送信していた。「はっ、FAX? 今時そんなの必要なの?」と疑問を持つ方も多いだろうが、業界によってはまだFAXが稼働しているんである。さすがに少数派ではあるが、記者会見の案内やイベントの出欠などで、FAXで返信するように求められることがあるのだ。中にはメールで案内が送られてくるのに、返事はFAXでというものもあった(本当に)。
●何年か前に故障によりFAX機を廃棄することになり、代わりにインターネットFAXのようなサービスを探したのだが、すでにその時点でこの種のサービスは廃れかけている感があった。あっても特殊な用途向けだったりして、あまり近づきたくない雰囲気というか。そんななかで救いだったのがBIGLOBEのFAX配信サービス。安心して使えた。
●今回のサービス終了について「電子メール等の普及により、サービスのご利用がここ数年減少しており、一定の役割を終えたと判断いたしました」という一文が載っていて、それはまあそうなんだろう。でも加えて、ウィルス禍でテレワークが進んだ影響もあるんじゃないだろうか。だって、FAXは絶対的にテレワークに反している。なにかを受信するために(それどころか受信しているかどうかを確かめるだけのために)FAX機のある場所まで足を運ばなきゃいけない。場合によってはだれかがFAX機まで行って、受信した紙をスキャンするかスマホで撮るかして、メール添付で担当者に転送するなんてこともあったんじゃないだろうか。そうなれば、いくらなんでもこれは理不尽だから、もう止めましょうということになるはず。
●これでいよいよFAXを使う機会はなくなると思う。なので、BIGLOBEのFAX配信サービスの後継サービスは探さない。もう探さない。ホントに探さないから。それでまちがっていない、はず……たぶん。きっと。
ブリテンのオペラ「ビリー・バッド」期間限定配信
●期間限定だが、グラインドボーン音楽祭で上演されたブリテンのオペラ「ビリー・バッド」をYouTubeで視聴できる(7月19日英国時間17時まで)。日本ではなかなか観るチャンスのない作品なので、これはありがたい。英語歌唱だが英語字幕ありの親切仕様なので、あらすじを知っていればなんとかなる。演奏はマーク・エルダー指揮ロンドン・フィル、演出はマイケル・グランデージ、題名役はジャック・インブライロ。
●役柄から想像するとヴィア艦長役がバスで、ビリー役がテノールなのかなと思うけど、艦長がテノールで、ビリーはバリトンなんすよね。美青年の善人である題名役がバリトンで歌われるという珍しいオペラ。もっとも、内面に焦点が当たっているのはヴィア艦長。軍艦での話なので登場人物は全員男性。男だけで歌われる。
●で、メルヴィルの原作を読んでストーリーは承知していたんだけど、これって「ピーター・グライムズ」級の鬱オペラだと思う。ブリテンの「ピーター・グライムズ」と「ビリー・バッド」にはいくつか共通点があって、どちらも集団から疎外された犠牲者の物語で、必ずしも明示的ではないけど男性同士の欲望が示唆されており、そして「海」の音楽でもある。ただ違うのは、ピーター・グライムズが乱暴な嫌われ者であるのに対して、ビリー・バッドは善良すぎる完璧な美青年。荒っぽい男ばかりの軍艦に徴用されたビリーは、あまりに善良であまりに美しすぎるがゆえに罰せられる。変わり者すぎても生きづらいけど、ナイスガイすぎても生きづらいという、この人間社会と来たら。ビリーが直面する理不尽さが真に息苦しい。第1幕を見終えた時点で、第2幕の鬱展開に立ち向かうのに勇気が必要だと感じたほど。
●しかし音楽的には第2幕が雄弁で、特に刑の宣告後は圧巻。水夫たちの怒りの唸り声などは、オペラにしかできない表現で震える。まちがいなく名作であり、そして救いがない。自分の心のなかでは「ビリー・バッド」は「ピーター・グライムズ」と並ぶ最凶の鬱オペラの2トップを組んだ。あるいは、プーランクの「カルメル派修道女の対話」も含めて3トップにしてもいいかも。
ついに観客入りで再開したJリーグ ~ マリノスvsFC東京
●ついに観客入りでJリーグが再開。といってもまずは観客数5000人まで。6万人超収容の巨大な日産スタジアムで5000人という疎。で、DAZNで観戦したのだが、どうやらみんな歌ったり騒いだりする応援スタイルは自粛しているっぽい。鳴り物もない。代わりになにがあるかというと、なんと、拍手だ! 好プレイが出るたびに「パチパチパチパチ」と拍手が起きる。なんか、この雰囲気、妙になじみあるぞ。まるでスタジアムがクラシックの演奏会みたいだ!
●で、前節からなんと7人を入れ替えたマリノスだが、苦手FC東京相手にあっさりと逆転負け。開始早々の4分に遠藤渓太のゴールが決まったのはよかったが、その後、ディエゴ・オリヴェイラ、レアンドロ、レアンドロとゴールを奪われて1対3。これだけ失点しておいてこんな言い方はおかしいかもしれないが、FC東京の守備に屈した、という実感。3点取られたというよりも、相手の守りにはまってしまった悔しさがある。
●徳島からやってきた新戦力のゴールキーパー、梶川裕嗣は本来なら一発レッドで退場になるべきプレイを、なぜか主審に見逃してもらってイエローで済んだ。前節までは好プレイが目立っていたのだが。
●今日も後半途中で「3枚替え」があった。今季限定の5人交代ルール(ただし交代は3回まで)が、競技の戦略性に大きく影響している。マリノスのメンバーだけ書いておく。GK:梶川裕嗣-DF:小池龍太、畠中槙之輔、チアゴ・マルチンス、ティーラトン-MF:扇原貴宏、天野純(→喜田拓也)、マルコス・ジュニオール(→エリキ)-FW:水沼宏太(→仲川輝人)、オナイウ阿道、遠藤渓太(→エジガル・ジュニオ)。
●ショスタコーヴィチは熱烈なサッカーファンだったことで知られている。贔屓のチームはディナモ・レニングラード(もちろんソ連時代だ)。観戦するたびに出場選手の名前をメモしていたようで、その一部が手紙に残っていたりする。選手の名前なんて今やだれも知らないが、その書き方で当時のディナモ・レニングラードがどんなフォーメーションを使っていたかはわかる。メンバー表は大切。
新しい生活様式
●ようやく演奏会も少しずつ再開され、まもなくサッカーも観客入りで試合を開ける段階までこぎつけたが、昨日東京では過去最多となる224人の感染者が出た。数字のインパクトは大きい。ただ内訳としては新宿での「接待を伴う飲食店従業員」の集団検査があったこと、また緊急事態宣言の頃とは異なり若年層の感染者が多く、したがって重症者は少ないという。たしかに数字の上っ面だけを見ても、そういった質的な差はわからない。効率的に感染者をあぶりだしているから数字が増えるという面もあるのかもしれない。
●とはいえ、若者は若者だけの社会で生きているわけではないので、このまま行けばいずれは幅広い年齢層に広がりそうなもの。シンプルに数字の変遷がどうなっているのかも見たい。で、都内だけの新規感染者数を対数グラフで示した表はないのかなと検索して見つけたのがこちら。5月下旬に底を打った後、ほぼ直線的に増加している。対数グラフなので、ちゃんと(?)ねずみ算式に増えていることがわかる。
●ついでに言えば、日本全国で見ても感染者数はけっこうな勢いで増えていて、おなじみのourworldindata.orgの上記グラフを見ると(国別7日移動平均の対数グラフ。画像だとつぶれるのでリンク先推奨)、新規感染者数に関して言えばアジア・オセアニアとヨーロッパの差はずいぶん縮まっている。オーストラリアなどはドイツとイタリアを上回ってしまった。日本と韓国はそこまでではないにせよ、6月に入ってから勢いが増して、ドイツやイタリアと同じ桁に乗っている。まあ、お互い同程度になってしまえば、ヨーロッパと日本で人の往来ができるようになる、とも言えるのか……。
●しかし、仮にもう一度緊急事態宣言と言われても、とても歓迎できる気分にはなれない。音楽業界はもちろんのこと、映画業界も観光業も飲食業もその他いろんな業界で働く多くの人々が何か月も収入を失って耐えてきた。ここまではなんとか乗り切れたとしても、すぐにもう一度自粛しろなどと言われたらたまったものではない。最後の手段としてなんらかの外出規制が必要なのは承知しているが、ある程度の水準まではウィルスと共存しながら日々の暮らしを営む「新しい生活様式」を実践していくしかないのだろう。ふたたび感染者数が増えてきたことで、「元に戻る」のではなく、「新しい生活様式」が続くのだということを実感している。
マリノスvs湘南ベルマーレ J1リーグ第3節
●えっ、この前、試合したばかりじゃないの。なのにもう試合。週末に続いて水曜日にも試合があるハイペースなリーグ戦。ニッパツ三ツ沢球技場でマリノスvs湘南。中三日のマリノスは先発を5人変更。4枚のディフェンスラインが畠中以外全員入れ替え。ブラジル人はマルコス・ジュニオール、エジガル・ジュニオ、エリキの3人が先発。守りの柱、チアゴ・マルチンスは今日もベンチスタート。GK:梶川裕嗣-DF:松原健、伊藤槙人、畠中槙之輔、高野遼(→ティーラトン)-MF:扇原貴宏(→水沼宏太)、喜田拓也、マルコス・ジュニオール(→天野純)-FW:仲川輝人、エジガル・ジュニオ(→大津祐樹)、エリキ(→オナイウ阿道)。
●マリノスはボールを保持するも、ゴールが遠い展開。スコアレスのまま後半に入り、55分、湘南が右からファーサイドへのクロスに山田直輝がダイレクトに折り返して、中に走りこんだ中川寛斗がスライディングして足の裏ボレーでゴール。左右にゆさぶるダイナミックなゴールでもう完璧。マリノスは63分、一気に攻撃の選手を3枚替え。オナイウ阿道、天野純、水沼宏太を投入。今季から交代枠が5人に広がっているが、交代の回数は従来通り3回なので、こうして複数選手を変える起用法が広がるはず。で、ここからが天野純ショー。66分、天野がゴール左斜め前から左足でループ気味のシュート、これが相手キーパーの頭上を越えてゴールに吸い込まれた。す、すごい。狙って蹴ったのか。これは伝説だ(と感心したが、試合後のインタビューによればクロスボールが風に乗って伸びただけだった……)。77分、ふたたび天野。細かいボールタッチから個人技でペナルティエリア内に侵入して、豪快に蹴りこんで逆転ゴール。これは真の個人技。ベルギーで覚醒したのか。
●その直後、湘南は右サイドからのグラウンダーのクロスに、ファーで鈴木冬一が決めて再度同点に。またしても左右の揺さぶりからやられてしまった。しかし87分、マリノスは水沼のクロスからオナイウが頭で合わせて決勝点。3対2で今季初勝利。相変わらず守備は不安定で大チョンボもあってハラハラする。昨季の裏MVP、チアゴ・マルチンスが先発に戻ってくれないと。
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●ONTOMOの連載「耳たぶで冷やせ」第21回は7月31日より全国公開される映画「剣の舞 我が心の旋律」の話題。ハチャトゥリアンの代表作「剣の舞」が初演前日に急遽作曲された話は広く知られているが、そこに至るまでのストーリーを肉付けして一本の映画に仕立てている。若き日のハチャトゥリアンが陰のあるイケメンとして描かれていてびっくり。
デスクトップPCを買い替える
●そろそろ耐用年数を過ぎたので、仕事用のデスクトップPCを買い替えた。これまでは代々ミニタワー型を使ってきたが、今回から一気に小型化して、Mini-STXと呼ばれる小ぶりのマシンに移行することに。高さも奥行きもわずか15cmほど、幅は8cm。本当に小さい。しかしパワフルで、通常のデスクトップ向けCPUを乗せることができる。今回購入したのはサイコムのRadiant SPX2700H310。中身はASRockのDeskMini310という小型ベアボーンなので、好きな人はそちらを購入して自分で組み立てることも可。ワタシは不器用なのでプロにお任せの一択。
●で、このマシンがとてもいい。サイズが小さいとこんなに快適なのかと痛感。ひょいと持ち運べる軽さで、どこにでも置ける。しかも静か。うっかりすると電源が入っているのか入っていないのかわからないほどで、音もなく起動して音もなく終了する。これはCPUクーラーにNoctua NH-L9iを選んだおかげかも。もともと静かさには定評のあるNoctuaだが、デフォルトの設定ではCPUの温度がかなり上がるまで30%ほどの回転数に留めてあってますます静か。逆にこれではいくらなんでも回らなすぎじゃないかと心配になって、UEFIからCPUクーラーの設定を呼び出し、CPUが50℃に達したら50%で回す設定にしてみた。これから夏だし、早めに回して、早めに冷やす作戦。これくらいだと負荷がかかると軽く「フーン」と回りだすが、それでもデスク上に設置して気に障らない程度。始終「ブオオーン」とか「ヒュイーーーン」とか言ってた従来機に比べると圧倒的に寡黙だ。ちなみに電源はACアダプタ。だからますます本体が小さい。
●ストレージは最大3つも入る。Cドライブ用には高速なM.2 SSDを使い(ヒートシンク必須と見た)、加えてメディアファイルやバックアップの置き場として、SATA接続の容量大きめのSSDを増設することにした。前のマシンでもそうしていたのだが、容量を食う音楽や写真などはOSとは別ドライブに置いたほうが、なにかと気が楽。SSDは相当価格がこなれてきて、QLCだと格安だが、耐久性が気になるのでTLCに留めることに。先代のマシンではバックアップ専用のHDDを内蔵していたが、今回は完全にハードディスクなし。光学ドライブも内蔵していないので、回転系はCPUクーラーのみ。
●非常に満足しているが、唯一不足なのがUSBポートの数。USB3.0が2個、USB2.0が1個、そしてなぜかType-Cが1個(便利なの?)。キーボード、マウス、USBオーディオインターフェイスで常時3つは必要なので、すぐにふさがってしまう。なのでUSBハブが必要になる。さて、どこにUSBハブを置こうか、デスクの端か、あるいはモニターの裏に貼り付けようかな……と悩んでいてハッと気がついたのだが、なんと、ウチのモニターにはUSBハブが搭載されていた! ぜんぜん知らなかったが、そうか、こういうときに役立つのかと静かに感動。
●ちなみに自分はインテルのチップセットを選んだが、AMD Ryzenを搭載したモデルもある。今はそちらを選ぶ人も多そう。
J1も再開! 浦和レッズvsマリノス J1リーグ第2節
●さて、J2とJ3に続いてJ1も再開。まずは無観客試合、続いて今週末から段階的に観客を入れて開催することが決まっている。第1節から時間が経ちすぎてほとんど忘れているが、昨年チャンピオンのマリノスは第1節でガンバ大阪に敗れている。浦和レッズvsマリノスをDAZNで観戦。これがかなり激しくて熱い試合だった。
●マリノスは今季もポステコグルー監督のもと、ハイラインのエキサイティングかつハイリスクなサッカーを展開。全体としてはボールをよく支配して、パスも回っていたが、終わってみればシュート17本で枠内3本。攻めた割には報われないというか、浦和の守備を崩しきれなかった。0対0の引き分け。
●マリノス側についてのみ触れると、昨季の主力であったブラジル人たちの内、チアゴ・マルチンス、マルコス・ジュニオール、エジガル・ジュニオの3人がいずれもベンチスタート。唯一エリキのみが先発。キーパーも朴が不在。ベルギーのロケレンから復帰した天野純と、ともに同クラブからやってきた小池龍太が先発するという新鮮な布陣。GK:梶川裕嗣、DF:小池龍太、實藤友紀(→チアゴ・マルチンス)、畠中槙之輔、ティーラトン-MF:扇原貴宏、喜田拓也、天野純(→マルコス・ジュニオール)-FW:仲川輝人(→水沼宏太)、エリキ、遠藤渓太(→エジガル・ジュニオ)。徳島から移籍のキーパー梶川は、足元の技術を買われたのだろうと思っていたが、この試合を見る限り、セービングもかなり優秀。正キーパーの座を狙える。全般に選手たちのコンディションにばらつきを感じるが、このあたりはどこのチームも条件は同じか。これからハードスケジュールで試合を消化していくので、戦いながらチームを整えていくしかない。試合間隔は密、客席は疎。感染より観戦。ああ、スタジアムに行きたくてたまらない。夏場ゆえに夜の試合ばかりなのが難点だが。
読響特別演奏会 日曜マチネーシリーズ この自然界に生きる
●5日はこちらも久々の東京芸術劇場で、鈴木優人指揮読響の特別演奏会日曜マチネーシリーズ「この自然界に生きる」。読響の再開後最初の演奏会。客席は一席おきに空席を配置、入り口ではサーモグラフィで来場者の体温をチェック。マスク着用、ブラボー禁止。休憩なしの約1時間プログラムということだったが、アンコールもあったので1時間20分くらいか。日曜日としては都内の人出は少なめだったと感じたが(ちなみに知事選があった、関係ないけど)、そうはいっても池袋は賑やか。
●プログラムはマーラーの交響曲第5番からアダージェット、メンデルスゾーンの「管楽器のための序曲」、モーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」。4月から読響の指揮者/クリエイティヴ・パートナーに就任した鈴木優人さんが用意したのは再開にふさわしく「すべてドの音から始まる曲」。マーラーの「アダージェット」、本質的に愛の音楽だと思うが、この状況下では映画「ベニスに死す」を連想せずにはいられない。疫病名曲(←そんな言葉はない)で始まって、最後は「ジュピター」のアポロン的な解決に至るというストーリーを思い浮かべる。というか、読響の場合は、下野竜也指揮の1月定期でグバイドゥーリナの「ペスト流行時の酒宴」があったので、巧まずして疫病名曲(?)シリーズができてしまった。
●マーラー5番の「小編成の弦楽器によるアダージェット」という、通常の全曲演奏では決して耳にできない響きが新鮮。シャープな8型アダージェット。弦楽器のアダージェットの後は、管楽器の出番でメンデルスゾーンの「管楽器のための序曲」。こちらは弦楽器以上に奏者間距離をうんと取って演奏。この曲、ベートーヴェンの交響曲第7番を連想させる。そして、やたらと耳にこびりつく曲でもある。最後は気迫のこもったモーツァルトの「ジュピター」。少人数ながらもパワフル、演奏する喜びにあふれていた。アンコールにラモーの「優雅なインドの国々」から「未開人の踊り」。客席で何人か紙を掲げていたけど、あれは「紙ブラボー」だったのか。笑。なるほど!
●オーケストラの音がいつもと違った響き方をするのは、散開配置のせいなのか、それとも半分空席の客席のせいで残響が変化するからなのか。これはBunkamuraの東フィルでも感じたことだけど、たとえるなら、お気に入りのアルバムを友人宅のオーディオ装置で聴いたら音質がぜんぜん違っていてた、みたいな感覚。
●最初のオーケストラの入場時にも拍手があった。最後の退場時にもずっと拍手が続いた。優人さんのソロカーテンコールもあった。今はどの演奏会も舞台と客席が一体となっているのでは。再開ブースト。
METライブビューイング ヘンデル「アグリッピーナ」MET初演/新演出
●3日は東劇へ。久々に都内の大移動だ。2020年銀座の旅。電車では普通にみんな詰めて椅子に座っているし、駅のホームでも対人距離はとられていない。都内の感染者が三桁に乗ったというニュースが報じられていることもあってか、マスク着用率はほぼ10割。現代のドレスコード。
●で、復活したMETライブビューイングでヘンデルのオペラ「アグリッピーナ」を観た。4時間の長丁場(休憩1回)ともなれば、いかにヘンデルの音楽がすばらしくとも、現代人にとってドラマとして楽しめるだろうか……とやや不安を抱きつつ臨んだが、これはまったくの杞憂。METの底力を見せつけるような最上級の舞台だった。演出、歌唱、オーケストラ、すべてを満喫。
●悪女として知られる主人公アグリッピーナは、ローマ帝国の皇帝となるネローネ(ネロ)の母親。息子を皇帝の座に就かせるために策略を巡らせる。史実に比べるとオペラの物語はマイルド。話の本筋はローマ皇帝という権力を巡る歴史劇だが、演出のデイヴィッド・マクヴィカーは舞台を現代に置き換えて、洗練されたコメディに仕立てた。ラブコメならぬパワコメ。これが実にセンスがいい。ネローネ(ケイト・リンジー)はパンクな若者で、中指を立てるわ白い粉を吸うわの大暴れ。皇帝クラウディオ(マシュー・ローズ)のストリップシーン(?)も巧みで練られている。恋人に見捨てられてやさぐれるオットーネ(イェスティン・デイヴィーズ)が酒場にやってきて歌うアリアで、「湧きあがる泉よ、水はさらさら流れて」(←うろ覚え)みたいな歌詞に合わせて、酒瓶を見つめてからグラスに注ぐあたりとか、なんともシャレていて笑う。
●歌手陣は驚異的。難度の高い歌を楽々と歌いながら、それぞれ演技の面でも芸達者。特にインパクトがあったのはポッペア役のブレンダ・レイ。これだけ歌えて、しかも演じられる人はそうそういないのでは。題名役ジョイス・ディドナートは貫禄。ピットの様子は一切画面に映らないが、ハリー・ビケット指揮のオーケストラはおそらく小編成の弦楽器で鋭くくっきりしたサウンド。重戦車のようなモダンオケ仕様のヘンデルではあるが、これだけ生気に富んでメリハリのある演奏をしてくれれば大吉。メトのピットからリコーダーが聞こえてくるのも新鮮。ちなみに「アグリッピーナ」はメトで上演されたもっとも古い作品なんだとか。1709年初演なので、ヘンデル(1685~1759)のなかでも初期の作品になる。
●終演後、カーテンの向こう側を見せてくれるのはMETライブビューイング名物だが、人々がみなヒシッと抱き合って健闘を称え合う様子に一瞬ぎょっとする。かつての普通もウィルス禍にあっては異様な光景に。いつもは「オペラの今」を伝えてくれるMETライブビューイングだが、今回ばかりは過去を懐かしむ気分になった。
東京フィル 渋谷の午後のコンサート
●2日、ついに久しぶりのコンサートへ。尾高忠明指揮東京フィルの「渋谷の午後のコンサート」をBunkamura オーチャードホールで聴いた。曲はエルガーの行進曲「威風堂々」第1番、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番(髙木竜馬)、シベリウスの交響詩「フィンランディア」、ジョン・ウィリアムズの組曲「スター・ウォーズ」抜粋。実はこの演奏会、曲目はほぼ当初の発表通り。本来なら満席の公演だったのだが、客席は一席ずつ間隔を開けなければならない。で、どうしたかというと、12時開演と15時開演の一日2公演になった。ただし、休憩なしの一時間公演。全曲が演奏されるはずだった「スター・ウォーズ」組曲は「インペリアル・マーチ」「レイア姫のテーマ」「メインタイトル」の3曲のみの抜粋に。それでも予定通りマエストロやソリストのトークも入り、さらにはアンコールにエルガーの「ニムロッド」まで演奏されて、実際には1時間をだいぶ超えていたと思う。
●この「渋谷の午後のコンサート」、もともとは平日昼間のリラックスムードの演奏会ではあるが、なにしろこの状況で実現したコンサートなので、やはり平時にはない特別な緊張感があったと思う。ワタシ自身にとっては2月以来の生オーケストラ。もう最初の一音からゾクゾクした。なんというぜいたくなサウンドなのか。普段のオーチャードホールの音より響きが豊かに感じられたのは、客席の半分が空いていたからなのか。気持ちのこもった演奏で、オーケストラを聴く喜びをしみじみと味わった。とりわけ「スター・ウォーズ」はキレがあって華やか。
●マエストロのトークは深刻ぶることなく軽妙なのが吉。「朝、電車に乗るときはこ~んなになって揺られているのに、どうしてここは一席ずつ開けなきゃいけないんでしょうね」。客席から笑い。実際、会場よりも渋谷までの電車のほうがよほど感染リスクが高かったんじゃないだろうか、朝でなくても。
●再開後、最初のコンサートで聴いたのが「スター・ウォーズ」。フォースの導きを感じる。しかもプログラムノートの執筆者は自分だ。ジェダイの騎士たちはフォースでウィルスを退けることができるのだろうか。接触感染を避けるために、自販機のボタンを押したりドアノブを回すときは、手を使わずにフォースを使いましょう、みたいなジェダイの感染対策を空想する。くくく。
東京アラート、じゃなくて
●今週はいくつか演奏会等に足を運ぶ予定なのだが、ここに来て東京の感染者数が増えてきたというニュースが連日報じられるようになった。緊急事態宣言を解除すれば揺り戻しがあるのは当然のこととして、問題は程度。報道では「今日は58人」みたいに生の人数が伝えられて、これだと規模感がわからないので、人口あたりの感染者数が全国と比べてどうなのかを見てみよう。
●6月29日時点のデータによれば、直近一週間の人口10万人あたりの新規感染者報告数は全国では0.5人、東京都では2.6人となっている。おおむね全国平均と比べて、東京は5倍くらいの感染者数ということになる。一週間で2.6人ということは一日平均で0.37人。見慣れた数字にするために、100万人あたりの感染者数に直すと3.7人/日。この数字は正直なところ、意外と多いなという実感。東京の過去の数字と比べると5月5日あたりの水準だが、例によって数字は現実から約2週間遅れる。感染収束局面では「実際にはもっと減っているはず」と安心していられたのに対し、拡大局面では「実際にはもっと増えている」。ゴールデンウイークの頃はかなり楽観的に思っていたが、今の気分はそうではない。
●こんなタイミングに都知事選挙が重なってしまった。投票日は7月5日。ウィルスにとって選挙のタイミングなど知ったことではないが。