July 14, 2020

ブリテンのオペラ「ビリー・バッド」期間限定配信


●期間限定だが、グラインドボーン音楽祭で上演されたブリテンのオペラ「ビリー・バッド」をYouTubeで視聴できる(7月19日英国時間17時まで)。日本ではなかなか観るチャンスのない作品なので、これはありがたい。英語歌唱だが英語字幕ありの親切仕様なので、あらすじを知っていればなんとかなる。演奏はマーク・エルダー指揮ロンドン・フィル、演出はマイケル・グランデージ、題名役はジャック・インブライロ。
●役柄から想像するとヴィア艦長役がバスで、ビリー役がテノールなのかなと思うけど、艦長がテノールで、ビリーはバリトンなんすよね。美青年の善人である題名役がバリトンで歌われるという珍しいオペラ。もっとも、内面に焦点が当たっているのはヴィア艦長。軍艦での話なので登場人物は全員男性。男だけで歌われる。
●で、メルヴィルの原作を読んでストーリーは承知していたんだけど、これって「ピーター・グライムズ」級の鬱オペラだと思う。ブリテンの「ピーター・グライムズ」と「ビリー・バッド」にはいくつか共通点があって、どちらも集団から疎外された犠牲者の物語で、必ずしも明示的ではないけど男性同士の欲望が示唆されており、そして「海」の音楽でもある。ただ違うのは、ピーター・グライムズが乱暴な嫌われ者であるのに対して、ビリー・バッドは善良すぎる完璧な美青年。荒っぽい男ばかりの軍艦に徴用されたビリーは、あまりに善良であまりに美しすぎるがゆえに罰せられる。変わり者すぎても生きづらいけど、ナイスガイすぎても生きづらいという、この人間社会と来たら。ビリーが直面する理不尽さが真に息苦しい。第1幕を見終えた時点で、第2幕の鬱展開に立ち向かうのに勇気が必要だと感じたほど。
●しかし音楽的には第2幕が雄弁で、特に刑の宣告後は圧巻。水夫たちの怒りの唸り声などは、オペラにしかできない表現で震える。まちがいなく名作であり、そして救いがない。自分の心のなかでは「ビリー・バッド」は「ピーター・グライムズ」と並ぶ最凶の鬱オペラの2トップを組んだ。あるいは、プーランクの「カルメル派修道女の対話」も含めて3トップにしてもいいかも。

このブログ記事について

ひとつ前の記事は「ついに観客入りで再開したJリーグ ~ マリノスvsFC東京」です。

次の記事は「FAX配信サービス提供終了のお知らせ」です。

最新のコンテンツはインデックスページへ。過去に書かれた記事はアーカイブのページへ。

ショップ