●ニコニコ生放送で18日(土)に配信された「東京交響楽団 東京オペラシティシリーズ 第116回 Live from Tokyo Opera City ! ニコ響」が、1週間オンデマンドで再生できるようになっている。これは来日できないジョナサン・ノットがドヴォルザークの交響曲第8番をリモート指揮(?)して話題になった演奏会。見逃した方はどうぞ。
●当日のプログラムはブリテンの「フランク・ブリッジの主題による変奏曲」とドヴォルザークの交響曲第8番で、ブリテンは指揮者なしでの演奏。生放送で見たが、後半になるとオーケストラの前に(そして客席側にも)大型モニターが置かれ、映像でジョナサン・ノットが指揮をする。といっても、これはリアルタイムの指揮ではなく、なんと、事前収録された映像。当初はリアルタイムで指揮する可能性を探っていたようだが、ネットワーク経由ではタイムラグが大きすぎて不可能。そこで、リハーサル段階でノットの意図をオーケストラに十全に反映させたうえで、本番では収録映像でノットが登場することになったという。その経緯は東響サイトの「事務局長が語る 音楽監督ジョナサン・ノットとの4ヶ月」に記されていて必読。ノットの進取の気性が伝わってくる。もちろん、事前収録なのだから、映像そのものは本質的に指揮とは言えない。オーケストラ側になにが起きても、映像のなかのノットは一切反応できないのだから。が、それは承知の上のチャレンジ。コンサートマスターの水谷さんは「音楽的なリハーサルはやるけれど、映像に合わせるリハーサルはやりません」と明言して臨んだという。
●そして、本番で生まれたのがこの演奏。どうだろう、たしかに確固たるパーソナリティに支えられたドヴォルザークが聞こえてこないだろうか。音楽として十分以上に成立している。もっともこれは数多くの共演を重ね、なおかつ過去に同曲を演奏してるこのコンビだから可能なことなんだろう。もしオーケストラと映像が大きくずれていったらどうするのかと思ったが、不思議なくらいに映像と音が同期している。ノットはそこにいるのかいないのか、という禅問答みたいな問いが思い浮かぶ。演奏を聴くと、そこにいる。でも逆説的だけどノットの映像を目にすると、ノットはいない。空想のオーケストラを相手に本番同様のテンションを保ちながら棒を振るのは相当にタフなことにちがいない。演奏が終わった後、映像がライブに切り替わって、スイスにいるノットが登場し、満面の笑みでオーケストラの健闘を称えた。ノットはずっとオンラインで聴いていたのか! そう知ると、がぜん事前映像の姿にも重みが感じられてくる。不在と存在の境界がどこにあるのか、試されているかのよう。
July 20, 2020