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August 15, 2020

映画「風の谷のナウシカ」(宮崎駿監督)

●いま、映画館はどこも一席空けで、最大でも客席数の半分しか埋められない。現状のままでは持続困難であるという点で、映画業界も音楽業界と似たような危機を迎えている。そして、新作映画が足りない。で、気が付いたらあちこちの映画館で過去の名画を上映している。シネコンが早稲田松竹のようだ。で、ジブリ映画の名作がいくつか上映されているのを見つけて、映画「風の谷のナウシカ」(宮崎駿監督)を観た。実は初見(ジブリはほぼ未見)。でも、「ナウシカ」を映画館で観たことのある人は決して多くないのでは。入場口で体温チェック、手指の消毒があるのはコンサートと同じ。ちなみにお客さんはよく入っていて、ウイルス禍以前に自分が観ていたたいていの新作映画よりよっぽど人がいると思った。
マスクをしたナウシカ
●1984年の映画だけに、映像や音声のクォリティは相応に古びてはいるものの、内容的にはまったく古びていないどころか、いま映画館で上映されることに納得。だって、この映画、いきなりマスクをした少女で始まるんすよ! 客席も全員マスクをしてるけど、スクリーンのなかでもマスクをしている。なぜかといえば世界は菌類の森で覆われていて、腐海からの瘴気を吸うと肺がやられるから。文明は崩壊し、大地は腐海と巨大昆虫たちで埋め尽くされている。その片隅で人類は素朴な農耕生活を送っているのだが、なぜか航空機などの高度なテクノロジーは保持しているという設定の黙示録的ファンタジー。ナウシカたちの動きを見ていて思い起こすのは「アルプスの少女ハイジ」と「未来少年コナン」。
●語り尽くされている物語なので、今さら付け加えることはなさそうだけど、この話って最後は強引にハッピーエンドに持っていくじゃないっすか。選ばれし者の自己犠牲ってヤだなと思うんだけど(自己犠牲で許せるのはブリュンヒルデだけ)、生き返ってくれて安堵する。でも世界が抱える問題はなにも解決していない。腐海はそのままだし瘴気も出てるし、人間は巨大昆虫や胞子を恐れながら生きていくしかない。巨神兵に腐海を焼き払わせて元の生活に戻ろうっていうのはダメで、人類は腐海と共生しなければならない。つまり、この話はマスクで始まって、「新しい生活様式」を受け入れるという結末で終わっている。