●まさかジョン・ウィリアムズがウィーン・フィルを指揮して自作を振ってくれるなんて! もう最高すぎる。なんでこの選曲なの、どうしてあの曲は入ってないの?など、思うところもあるが、これは唯一無二の価値を持ったアルバム。一気に聴くともったいないので、ちびちびと聴いている。配信でも聴ける一方で、パッケージでは「ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン」デラックス盤としてUHQ-CD/MQA+Blu-ray付のバージョンもリリースされている(MQAは対応機器があればハイレゾで聴けて、通常CDとも互換性があるという不思議な規格、らしい)。
●やはり「スター・ウォーズ」のメイン・タイトルには耳を奪われる。ジョン・ウィリアムズ本人が指揮していても、これはウィーン・フィルの「スター・ウォーズ」。ロンドン交響楽団やハリウッドのオーケストラとは少々趣が異なる、壮麗で格調高い「スター・ウォーズ」。ここにはキレのあるパワフルで突き抜けるようなブラスセクションはないかもしれないが、それに代わる芳醇な響きがある。木目調の「スター・ウォーズ」とでもいうか。ウィーン・フィルには以前ヴェルザー=メストの指揮による同曲の録音があったが、あれはシェーンブルン宮殿の野外コンサートを収録したもので、残響の不足が惜しい録音だった。
●「スター・ウォーズ」のメインタイトルというと、自分は「帝国の逆襲」のロンドン交響楽団による演奏を聴くことが多かったのだが、冒頭での若干歪み気味のめいっぱいの強奏を聴くと、脳内スクリーンには「遠い昔、はるか彼方の銀河で……」のテロップが画面奥へとスクロールしてゆく。しかしこのウィーン・フィルの「スター・ウォーズ」はそうならない。本編から独立した20世紀後半の管弦楽曲として鳴り響くコンサートホールの「スター・ウォーズ」。たぶん、映画「スター・ウォーズ」はこれから忘れ去られることになる。特に最後の3作、エピソード7~9があんなことになってしまった以上、もはや伝説のシリーズとは言えない。でも、曲は残るんじゃないだろうか。マスネのオペラ「タイス」を観たことがなくても「タイスの瞑想曲」は知っているように、あるいはロッシーニのオペラ「ウィリアム・テル」を観たことがなくてもその序曲は楽しめるように、「スター・ウォーズ」のメインタイトルも映画本編より長生きするにちがいない。
●「帝国のマーチ」にもどこかエレガンスを感じる。ハプスブルク帝国の逆襲だ。
August 24, 2020