●映画館でクリストファー・ノーラン監督の「TENET テネット」を見る。なるほど、前評判通り、これは一回見ただけではわからない。いや、別にわからないところも含めて十分に楽しめるんだけど、もう一回見たくなる。たとえるなら、よくできたミステリーで最後にトリックが明かされた後、もう一回最初に返って伏線を確かめたくなるような感じ。これだけ観客の頭に「?」を抱かせながらも、ちゃんとスリリングなエンタテインメントとして成立しているのがすごい。見た後にだれかと語りたくなる映画。
●映画の本筋は「007」ばりのスパイアクション。冒頭、ウクライナのオペラハウスでテロが起きる場面から、ガツンとパワフルなアクションシーンで始まる。ただし、「007」と違うのは、これが「時間SF」であること。登場人物たちは時間を逆行できる。といっても、タイムスリップできるわけではない。特定の場所を通ると、順行と同じ速度で逆行できるというだけ。だから3日前に戻るためには主観時間で3日間が必要になる。そして、逆行したら、また特定の場所を通過して、順行に戻る(戻らないと……どうなるんだろ?)。逆行中の描写が見物で、予告編にあるカーチェイス・シーンで逆行する車の様子が映っている。作中に出てくる物理学的な解説を理解する必要はないと思う。
●なお、主人公には名前がない(作品中で一度も名前を名乗らないし、呼ばれない)。そして、クリストファー・ノーランの最初期の作品「メメント」を想起した。ストーリーはぜんぜん違うけど、あの時点で種がまかれていたのかな、と。
October 2, 2020