●2日、新国立劇場でブリテン「夏の夜の夢」ゲネプロを見学。ようやく劇場が再開するという喜びをかみしめる。指揮は飯森範親(当初予定はマーティン・ブラビンス)、演出・ムーヴメントはレア・ハウスマン(デイヴィッド・マクヴィカーの演出に基づく)。キャストはすべて国内組に変更、演出も「ニューノーマル時代の新演出版」に変更されてはいたが、それがなんら不都合を感じさせない完成度の高い舞台に仕上がっていた。対人距離に関してはたまたま作品が「夏の夜の夢」だったのも幸いしていたと思う。巨大な屋根裏部屋がモチーフとなった舞台でくりひろげられるフェアリーテイル。男女二人が熱く抱擁するようなイタリア・オペラだったらこうはいかない。音楽面でもとてもよく準備されているという印象。オーケストラは東京フィル。整然として明快なサウンド。歌手陣も藤木大地(オーベロン)をはじめ高水準で、平井香織(タイターニア)、河野鉄平(パック)、大塚博章(シーシアス)、小林由佳(ヒポリタ)、村上公太(ライサンダー)、近藤圭(ディミートリアス)、但馬由香(ハーミア)、大隅智佳子(ヘレナ)、高橋正尚(ボトム)、妻屋秀和(クインス)、岸浪愛学(フルート)、志村文彦(スナッグ)、青地英幸(スナウト)、吉川健一(スターヴリング)。パック役はてっきり役者が演じているのかと思ったら、なんと河野鉄平さんという歌手で、とても歌手とは思えない動きのキレとスピード、セリフの雄弁さ。最後の幕切れの口上が最高に決まっていた。
●で、「夏の夜の夢」だ。ワタシは2016年に兵庫県立芸術文化センターで佐渡裕指揮、アントニー・マクドナルド演出を見ている。そのときはこれを逃したらもうチャンスはないかもと思って兵庫まで行ったのだが、こんなにすぐに2回目のチャンスがあろうとは。ブリテンの音楽は「ピーター・グライムズ」や「ビリー・バッド」のような鬱オペラとは違って、チャーミング。でもそうはいってもときどき闇落ちしているんじゃないかって気はする。問題はストーリーで、これはよくわからないのが普通だと思う。前史部分が省略されているとか、登場人物が多すぎるとかいったことだけではなく、妖精たちの物語(オーベロンとティターニアの小姓を巡るけんか)、人間たちの物語(恋人との駆け落ち)、職人たちのコメディのそれぞれが併行していて、互いの関係性やテイストの違いにとまどう。たとえるなら、ドリフのコントやモンティパイソンのコメディが数百年後に台本から再現されているようなもので、本来のコンテクストが失われて、現代日本のわれわれにはぜんぜん意図が通じていないんじゃないかという疑いがぬぐえない。ただ、それでもあえていえば、これは「結婚式オペラ」を装いながらも、本質は「結婚式の二次会」なんだと思う。恋人たちの交換であり、ガール(ボーイ)ハントであり、媚薬によるドラッグパーティであり、きわどい話をふんだんに含んでいるんだけど、そんな放埓さを3組のカップルのお行儀のよいハッピーエンドに収斂させている。そう思うと、ブリテンがオペラに選んだ「ピーター・グライムズ」や「ビリーバッド」や「ねじの回転」といった題材と共通する要素がここにもある。
October 5, 2020