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October 8, 2020

「その裁きは死」(アンソニー・ホロヴィッツ著/創元推理文庫)

●どれを読んでも練りに練った秀作ぞろいのアンソニー・ホロヴィッツ。最新刊「その裁きは死」(創元推理文庫)を読んだところ、これも大変よくできたミステリー。「メインテーマは殺人」に続いて、元刑事の探偵ホーソーンと著者自身が、ホームズ役とワトソン役になってコンビを組む。なにしろ著者はコナン・ドイル財団公認のもと、シャーロック・ホームズ・シリーズの新作を書いているくらいなのだから、ホームズへのリスペクトも相当なもの。しかしこの現代において、ホームズのような古典的ミステリをそのまま書くわけにはいかない。そこで、ワトソン役に自分自身を抜擢して(?)、実在の人物や現実世界の出来事を小説内に登場させるというメタフィクション風の手法がとられている。
●凝ったミステリのトリックに依存せず、小説としておもしろい。ホームズ役のホーソーンに粗野で図々しい人物像を設定しているのがいい。嫌なヤツが何人も出てくるけど、みんなそれぞれに魅力を放っている。著者はテレビの仕事もたくさんしていて、NHKでも放送された「刑事フォイル」の脚本家でもあって、その撮影シーンも出てくる。ジュブナイルのシリーズで大当たりをとって、テレビの仕事もバリバリとこなす「商業的な作家」である著者が、高尚な作品を書く日本生まれの女性作家に小説内で邪険に扱われる。このあたり、いかにもありそうで、本当に可笑しい。でもテレビで鍛えられている人だからこそ、入り組んだ話でもすっきり見通しよく書けるんだと思う。技術の高さ。