●3日は東京オペラシティで鈴木優人指揮バッハ・コレギウム・ジャパンによるヘンデルのオペラ「リナルド」(セミステージ形式)。神奈川県立音楽堂に続く東京公演、客席はよく入っていた。体温、手指消毒、連絡先記入、セルフ半券もぎり、時差退場等、現在の標準的な感染対策あり。歌手陣は当初の予定からオール国内組に変更され、リナルド役には当初エウスタツィオ役だった藤木大地が抜擢された。森麻季(アルミレーナ)、中江早希(アルミーダ)、大西宇宙(アルガンテ)、波多野睦美(魔法使い)、久保法之(ゴッフレード)、青木洋也(エウスタツィオ)他。カウンターテナーが3人(リナルド、ゴッフレード、エウスタツィオ)もいる重心の高いオペラ。随所に工夫が凝らされていて、バロックオペラを上質のエンタテインメントに昇華させた見事な舞台で、休憩2度をはさんで4時間の長丁場を飽きさせない。名アリア「私を泣かせてください」を頂点に森麻季がさすがの歌唱。ナチュラルに漂うお姫様キャラ感。藤木大地のリナルドはこの演出(後述)にぴったり。敵方も充実、大西宇宙のアルガンテは立派、声でも演技でも忘れがたいのがアルミーダ役の中江早希で、第2幕の怒りの表現に大喝采。アルミーダは「夜の女王」直系のご先祖様って気がする。嵐のようなチェンバロ・ソロをはじめ器楽も見せ場満載。そして「リナルド」という作品に改めて魅了される。サービス満点のヘンデル。若き日に持てるすべてをつぎ込んだ渾身の作といった感。
●演出は砂川真緒、ドラマトゥルクに菅尾友。これが秀逸。会場内の至るところに上記写真のようなポスターが貼られていた(これ自体、RPGのパロディとして最高におかしい)。主人公リナルドは胸にRの文字が入ったトレーナーを着た、いくぶんオタクっ気のあるゲーマーなんである。そしてRPG「リナルド」の世界で、オペラの物語が展開する。これは実に納得のゆくアイディア。勇者、姫、剣と魔法の世界が現代においてもっとも親しまれているのはRPGの世界にほかならない。ゲーム機のコントローラーを握れば、みんなが勇者になれる。「リナルド」という古い物語にメタフィクションという形の現代性をもたらしたうえで、主人公とヒロインのフィジカルな接触を最低限に済ませるウイルス禍に応じた演出にもなっている。なによりいいのは、キリスト教徒対イスラム教徒というセンシティブにならざるを得ない対立の構図を話の本筋から外せる点。最後にムスリムたちを改宗させて「ハッピーエンド」とする居心地の悪さが解消される。最後の場面、リナルドはオペラ内世界から現実世界に帰ってきて満たされつつも寂しさを感じるような終わり方になるのかなと予想したら、そこは少し違っていて、音楽に合致した円満なフィナーレだった。
●ところでこのRPG「リナルド」はどんなテイストのゲームなのか。自分の想像ではドラクエ風でもなく、ファイナルファンタジー風でもない。ダークファンタジーの要素があって、しかもスタイリッシュ。ずばりメガテンこと「女神転生」のイメージだ。もっとも、胸にRのロゴは、ポケモンのロケット団そのもので、「愛と真実の悪を貫くラブリーチャーミーな敵役」感が半端ない。
November 4, 2020