●28日は東京オペラシティで鈴木雅明指揮バッハ・コレギウム・ジャパン。ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」で始まり、休憩をはさんでミサ曲ハ長調。独唱陣は中江早希(ソプラノ、先日の「リナルド」アルミーダ役でも大活躍)、布施奈緒子(アルト)、櫻田亮(テノール)、加耒徹(バス)。客席は盛況。もちろん入場時の体温チェック等、標準的な感染対策あり。
●ベートーヴェンのほぼ同時期の作品ながら、「運命」は超有名曲、ミサ曲ハ長調はほとんど聴く機会のない作品。一曲目から「運命」というのもなかなかないこと。ほんの4日前に鈴木優人指揮読響で「運命」を聴いたばかりで、たまたま(?)親子「運命」ウィークが実現。といっても際立ったのは、モダン・オーケストラとピリオド・オーケストラの対照であり、色彩感の違い。冒頭の運命の動機から澄んだ響きが聞こえてくる。管楽器の多様なパレットが駆使されて、均質ではない響きがひとつに調和する様が快感。見上げるほど巨大なコントラファゴットは視覚的な存在感もすごい。HIPな演奏様式が広がったとは言っても、ピリオド・オーケストラでベートーヴェンを聴く機会となるとめったにないのが現実。
●ミサ曲ハ長調は、あの「運命」「田園」他が初演された歴史的演奏会でも一部披露されている。エステルハージ家からの委嘱作品で、先人ハイドンと比較されるのはしょうがないとしても、アイゼンシュタットで初演された際にエステルハージ侯から駄作の烙印を押されてしまった気の毒な作品。ハイドン側から見ると、あまりにミサ曲の枠からはみ出しているというか、やんちゃすぎるのだろうか。しかしベートーヴェン側から見ると、後に「ミサ・ソレムニス」という超ド級傑作が生まれているだけに目立たないのもしょうがない。「グロリア」は高揚感にあふれ、「クレド」は起伏に富む。「サンクトゥス」前半など、ところどころ「フィデリオ」を軽く連想。「アニュス・デイ」は風変わりな感じで、エステルハージ侯ならずとも戸惑う。最後、妙に虚無感が漂った終わり方で、「えっ、これで終わるの?」と思う。
●演奏後、鈴木雅明さんがマイクを持って登場し、定期演奏会ながらアンコールを案内、ハイドンの「神の聖ヨハネのミサ・ブレヴィス」より「アニュス・デイ」。安らかな気分で終演。拍手が止まず、ソロ・カーテンコールあり。
November 30, 2020