December 25, 2020

エラス=カサド指揮NHK交響楽団の「第九」

●23日夜はNHKホールでパブロ・エラス=カサド指揮N響のベートーヴェン「第九」。エラス=カサドは14日間の隔離期間を受け入れて来日。読響のヴァイグレといい、N響のエラス=カサドといい、この状況での来日には頭が下がる。だって、14日間っすよ。これが7日間とか、せめて10日間だったらまた話は違ってくると思うんだけど……。NHKホールは一席空けではあるが、チケット完売で、久々の盛況(と言っていいのであれば)。合唱は読響公演と同様に40人規模の新国立合唱団、独唱は高橋絵理のソプラノ、加納悦子のメゾ・ソプラノ、宮里直樹のテノール、谷口伸のバリトン。
●オーケストラの入場時に拍手あり。弦楽器は12型と小ぶりな編成。エラス=カサドは第1楽章から一貫して速めのテンポを採用。特に第1楽章は前へ前へと進む力が強く、リズミカルでほとんど舞踊性を感じるほど。まるで第2楽章のスケルツォを先取りしているかのよう。切れ味鋭く、コントラストのはっきりした「第九」で、スリリングで聴きごたえがあった。少数精鋭の合唱はさすがにこの巨大空間では遠さを感じるものの、オーケストラと一体になって雄弁なドラマを伝えてくれた。トータルで60分強。一気呵成に駆け抜けるかのよう。エラス=カサドにはフライブルク・バロック・オーケストラとの同曲の録音があるが、HIPなスタイルにはこだわらず、N響のサウンドを尊重。これだけ充実した演奏であれば、本来なら終わるや否やのブラボーがあったはずだが、今は仕方がない。
●「第九」第1楽章の冒頭って、もやもやとした混沌から秩序が生まれてくるというイメージで、ハイドンの「天地創造」のベートーヴェン流バージョンなんだと思う。シラーの「歓喜の歌」が自由、平等、博愛を讃えているのはたしかとしても、それってあえて宗教性から目を背けているような居心地の悪さもあって、実際には神様万歳の歌詞でもあるはず。宗教的題材を扱った合唱曲という意味で、第4楽章はオラトリオ的。だから、やっぱりこれはベートーヴェン版の「天地創造」でもあると感じる。晩年のハイドンは傑作ミサ曲をいくつも書いたけど、一方ベートーヴェンはハイドンと比較されるのを承知でミサ曲ハ長調を書いてエステルハージ侯から酷評され、ずっと後で「ミサ・ソレムニス」という金字塔を打ちたてた。よくベートーヴェンの初期作品はハイドンの影響を受けているとは言うけれど、見ようによっては晩年までかつての師の背中を追っていたようにも思える。
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●お知らせ。ソニー音楽財団の「子ども音楽新聞」最新刊に協力させていただいた。テーマはこの12月に生誕250周年を迎えたベートーヴェン。クイズあり、豆知識あり、漫画ありで、小学生が本当に自発的に読みたくなるものを目指した。例年であれば公演会場で配れるが今年はそれは無理なので、小学校等に配布している。

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