December 28, 2020

バッハ・コレギウム・ジャパンの「第九」

●27日は東京オペラシティで鈴木雅明指揮バッハ・コレギウム・ジャパンによるベートーヴェン「第九」。2019年1月にも同ホールでBCJは「第九」を演奏しているが、ベートーヴェン生誕250年の締めくくりとして、今回の公演が急遽実現。14時からと18時からの一日2公演で、18時の回に足を運んだ。客席は大盛況(一席空けではない)。今年、珍しく3公演も「第九」を聴いたが、どれもお客さんがよく入っている。この一年の鬱憤を晴らすがのごとく、せめて「第九」は聴く、ということなのか。森麻季のソプラノ、林美智子のアルト、櫻田亮のテノール、加耒徹のバス。
●休憩なしの公演だが、「第九」に先立って鈴木優人のオルガンでバッハのパッサカリアとフーガ ハ短調 BWV582。ささやかに始まって、やがて荘厳華麗な威容が築かれる様は圧倒的。「第九」の前にバッハのオルガン曲を一曲というのは、内容の点でも長さの点でも吉。「第九」は弦楽器7型(7-7-5-5-3)、合唱は30名強。もともとBCJならこれが本来の姿という思いがあるからなのか、今年聴いた「第九」のなかではもっとも少人数であるにもかかわらず、一切の不足を感じさせず、むしろ格段の熱量が伝わってくる。先日の「運命」でも感じたが、今回もオーケストラの響きが清澄。弦楽器の透明感が本当にすばらしい。そして管楽器はカラフルで、ひとつひとつのパート、ひとりひとりの奏者が際立つ。モダン・オーケストラの均質性や安定性に代わる、語り口の豊かさ。第4楽章、加耒さんのレチタティーヴォが最強に雄弁だった。
●いつもは「第九」を聴くと一年を振り返る年末気分になるのだが、今年はまったくそういう気分になれない。ウイルス禍で一年が一年ではなかったから。あるいは、今は振り返る時期ではなく、これから始まる時期だから、かな。感染状況は今がもっとも酷く、都内の新規陽性者数は一直線の増加から、この数日でさらに勾配を増している。年末年始の休みで劇的に感染者が減ることを願うばかり。

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