●元日はテレビでウィーン・フィルのニューイヤー・コンサート。リッカルド・ムーティ指揮のもと、無観客で開催された。オーストリアの新規感染者数は一時の爆発的な勢いに比べればだいぶ減ってきたが、そうはいっても100万人あたり200人台で独仏伊と同水準(ourworldindata参照。ちなみに日本は上昇中で30人弱。8月下旬のオーストリアの水準にある)。ウィーン・フィルのメンバーは全員毎朝リハーサル前にPCR検査を受けているそう。たしかに検査を一度受けても、翌日には感染しているかもしれないわけで、受けるのなら受け続けないとしょうがないのだろう。秋の「隔離来日公演」と同じで、普通の楽団にはまねできないこと。事前の記者会見で、フロシャウアー楽団長は「ニューイヤー・コンサートを中止にすれば後ろ向きのメッセージを発してしまう。世界に向けて前向きのメッセージを届けたい」と言い、ムーティは「美しい音楽を届けるだけではなく、『希望』を届けたい」と語っている。ウィーン・フィルの姿勢は一貫している。
●プログラムはムーティにちなんでイタリアと縁のある曲が多かった。「半分はイタリア人」というスッペの「ファティニッツァ行進曲」「詩人と農夫」序曲、ヨハン・シュトラウス1世の「ヴェネツィア人のギャロップ」、ヴェルディらのイタリア・オペラからテーマを借りたヨハン・シュトラウス2世の「新メロディ・カドリーユ」op254など。珍しい曲と超名曲がバランスよくそろっていた。ムーティは今年80歳だが、身体表現が雄弁かつダイナミックで、とてもそんな年齢には思えない。音楽は一言でいえばゴージャス。タメも多く、重くて粘るのだが、華やかさ、爽快感がある。白眉は「皇帝円舞曲」。もともとシュトラウスのワルツでは随一のシンフォニックな作品だと思うが、皇帝の名にふさわしいスケールの大きな音楽で、ウィンナワルツの枠を超えた重厚な味わいを楽しめた。
●注目はアンコール。「美しく青きドナウ」が始まっても、お約束の拍手で妨げる観客はいないので、そのまま演奏が続いた(そりゃそうだ)。これでいいのでは。「ラデツキー行進曲」に手拍子を打つ観客もいない。観客がいないことは残念だけど、このリセットされた感じは悪くない。来年の指揮はバレンボイムだそう。うーん……。
January 4, 2021