March 8, 2021

カーチュン・ウォン指揮日本フィルのショスタコーヴィチ、シュトラウス、ベートーヴェン

●5日は二晩続けてサントリーホールへ。カーチュン・ウォン指揮日本フィル。来日できないインキネンに代わって、カーチュン・ウォンが日本フィルにデビュー。カーチュンはシンガポール出身、2016年のグスタフ・マーラー国際指揮者コンクール優勝者で、ニュルンベルク交響楽団首席指揮者を務める新星。日本語もかなり達者。プログラムは実に魅力的。ショスタコーヴィチ(バルシャイ編)の室内交響曲、リヒャルト・シュトラウスのオーボエ協奏曲(杉原由希子)、ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」。当初予定から一曲変更してショスタコーヴィチを入れることで、全体からひとつのストーリーが浮かび上がってくる。困難の時代を経て喜びの時代へ、あるいは人間社会の軋轢から自然賛歌へ。どう読んでもいいだろうが、今の時代の気分に寄り添うものだったと思う。
●1曲目のショスタコーヴィチ~バルシャイが秀逸。緊密でキレのあるアンサンブルで雄弁。シュトラウスのオーボエ協奏曲は首席奏者杉原由希子によるまっすぐで伸びやかなソロを堪能。前夜の読響に続いて楽員がソリストを務める協奏曲を聴くことになったが、やはり仲間同士の信頼感が伝わってくる温かい雰囲気になる。後半の「田園」は楽曲本来の描写性をいっそう強調するような解釈で、第1楽章からしばしば訪れる管楽器の強調に鳥のさえずりや風のざわめきを感じ、第3楽章は一段とひなびて楽しげで、嵐の後の終楽章はすこぶる陶酔的。弦は10型で、響きはやや薄め。カーチュンは指揮棒を持たず、はっきりした動作でオーケストラを率いる。いくぶん大げさなくらいのゼスチャーなんだけど、全身から彼の持っているポジティブなオーラがあふれ出てくるようで、好感度はマックス。このパーソナリティは稀有。また聴きたくなる。
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●ONTOMOの連載「耳たぶで冷やせ」第24回は「戦禍で生まれ、コロナ禍にも通じるストラヴィンスキー『兵士の物語』のメッセージ」。「兵士の物語」の元ネタとなったロシア民話について書いている。ご笑覧ください。

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