●15日はサントリーホールで尾高忠明指揮都響。武満徹の「系図 若い人たちのための音楽詩」(語り:田幡妃菜、アコーディオン:大田智美)、エルガーの交響曲第1番というプログラム。武満徹の「系図」はなんといっても谷川俊太郎の詩ありきの作品で、少女の視点から祖父と祖母、父と母の家族3代の肖像を描く。この家族像の不穏さがたまらなく味わい深い。心を空白にしてご飯を食べているお父さん、ご飯を作りながらビールを飲んでしまい、そのままプイッとどこかに出かけてしまうお母さん。娘はそんな家族を愛おしく思っている。設定上の少女の年齢は10代半ば。録音で聴くと、朗読にはかなり技術も必要なので(日本語の聴き取りやすさは必須)、演者の実際の年齢にこだわる必要はないと思っていたのだが、今回の田幡妃菜さんは設定通りで、当日16歳の誕生日を迎えたのだとか。なるほど、仮想的な娘っぽさ、孫っぽさを醸し出すという点で、ステージだと設定年齢通りなのは意味があるのかもと納得。等身大の少女像で好演。
●この曲、オーケストラの編成がけっこう大きい。朗読中心の曲なんだから2管編成+打楽器+アコーディオンくらいで十分じゃないかと思いきや、実際にはかなり厚い響きを作り出す。輪郭のくっきりした音よりも、朧げなニュアンスに富んだ音を使うことで、日常の光景に非現実感を与えている。なにせ「むかしむかし」で始まる詩でもあるので。この詩は冒頭の「むかしむかし」で時を超え、終曲の「とおく」で空間を超える。
●後半のエルガーの交響曲第1番はマエストロの十八番。先に聴いた「系図」と親近性を感じて、これも一種の「むかしむかし」で始まるノスタルジアなのかなと思う。このうえもなく高貴で輝かしく壮麗な音楽。オーケストラの機能性とパッションが一体となった名演。客席はかなり閑散としていたのだが、なぜかそんなときほど熱い演奏を聴くことが多いような気が。拍手が止まず、マエストロのソロ・カーテンコールあり。
March 16, 2021