●6日はサントリーホールでカーチュン・ウォン指揮読響。ウイルス禍のなか、シンガポール出身の気鋭が大活躍中。プログラムはかなり意欲的。前半は細川俊夫の「冥想 -3月11日の津波の犠牲者に捧げる-」、デュティユーのヴァイオリン協奏曲「夢の樹」(諏訪内晶子)、後半はマーラーの交響詩「葬礼」と交響曲第10番より「アダージョ」をつなげて。細川作品に限らず、全体として震災10年の節目を意識させるプログラムになっていた。
●一曲目の「冥想」は精緻な祈りの音楽。繊細な響きが生み出す美の世界は、現実の震災の凄惨さとは打って変わって、ほとんど神話的なほど。デュティユーの「夢の樹」は音色がおもしろい。一曲目が波、二曲目が夢の音楽だが、むしろ一曲目が夢、二曲目が波のイメージを想起させたかも。後半はマーラーのスタートとゴールだけを抽出したような選曲で、「葬礼」で切れ味鋭く始まり、彼岸の世界へと淡く消える。大河ドラマにたとえるなら(なんでだ)、子供時代を演ずる子役から、いきなり大人の役者の老けメイクに変貌するようなワープ感。指揮ぶりは明快でダイナミック。これはこれで貴重な体験だったが、かなりもりだくさんのプログラムだったので、いずれがっつりマーラーの大曲も聴いてみたくなる。
●客席はまずまずの盛況。今回もカーチュンは聴衆の気持ちをつかんだようで、なんとこのプログラムでソロ・カーテンコールあり。すごい。
April 7, 2021