●新国立劇場のバレエ「コッペリア」無観客ライブ配信を観た。ドリーブ作曲、ローラン・プティ振付。緊急事態宣言により公演は中止となったが、代わって全4公演が無観客ライブ配信されている(見逃し配信はなし)。都合により2日の初日に第1幕を、5日に第2幕以降を観る。キャストは2日が米沢唯のスワニルダ、井澤駿のフランツ、5日が池田理沙子のスワニルダ、奥村康祐のフランツ。コッペリウスはともに中島駿野。冨田実里指揮東京フィル。8日にあと一公演、残っている。
●「コッペリア」というとあの有名なワルツくらいしか知らなかったので、全曲を聴いたのはたぶん初めて。思いのほか華麗な音楽で、サービス満点。たとえるなら前菜もメインディッシュもすべておしゃれスイーツだけでできたコースメニューのようで、その甘さと過剰さははなはだ快楽的。振付はコミカルで愉快。バレエ門外漢も初見で楽しめる。ストーリーも明快に表現されていてありがたい。スワニルダの恋人フランツが自動人形コッペリアに心を引かれるものの、最後はめでたく結ばれるという喜劇。しかし感情移入の対象になるのは自動人形を作ったコッペリウス博士。最後のシーンではコッペリアがバラバラになってしまい、なんともいえない疎外感を味わえる。いったんは魂が宿ったかと思った自動人形が、元の木阿弥になるという苦さは大人向けだ。
●で、コッペリウスといえば、オペラ・ファンがまっさきに思い出すのはオッフェンバックの「ホフマン物語」だろう。「ホフマン物語」にもコッペリウスが登場し、自動人形に恋する男のエピソードが描かれる。これはどちらもE.T.A.ホフマンの「砂男」が元ネタということになっている。ただ、元ネタにあるはずの「怪奇と幻想」テイストが「ホフマン物語」にはいくらか残るのに対して、「コッペリア」では影も形もない。コッペリウスの正体は恐ろしい砂男(サンドマン)などではなく、むしろ孤独な機械好きのオッサンにすぎない。自分が作った機械の人形に魂を込めるというコッペリウスの夢はかなわなかったわけだけれど、実のところ彼は生身の人間よりも機械と向き合っているときのほうがハッピーなんじゃないかな、という気も。
●そういえば新国立劇場のバレエといえば以前「くるみ割り人形」(ウエイン・イーグリング振付)の配信について書いたが、「コッペリア」も「くるみ割り人形」も原作はE.T.A.ホフマンだ。「コッペリア」に登場するコッペリウスは、「くるみ割り人形」のドロッセルマイヤーのもうひとつの姿のようにも感じる。
May 6, 2021